NEWREEL
Reel

ローラ・ヤング「Woman」のMVは
スタッフを含めみんな裸で女の自由を謳歌する

金井哲夫 金井哲夫 Feb 1 2021

ローラ・ヤングの「Woman」に登場するさまざまな肌の色や体型の女性たちは裸であることを恥じらうことなくカメラの前で自由に踊る。そこには不条理な束縛から解放された、本来の自由な女性たちの姿が映し出されている。ローラが何を思い、なぜこのMV作品をつくったのか。YouTube動画の解説に書かれた彼女のメッセージ(全訳)とともに紹介。

dir
Olivia Rose
m
Lola Young
FacebookTwitterLinePocket

ローラ・ヤングが8月にリリースした「Woman」のMVは、非常にパワフルで刺激的で意義深い。彼女は、MVの頭にもともとこの歌には入っていなかったモノローグを追加した。

一度だけ言います。これからお見せするのは女。
誰もが光輝き、痛みを抱え、堂々と自分を愛し、
見てくればかり重視されるこの時代に臆することもない。
私たちは強い

そして歌が始まり……

……あなたのためにプライドを飲み込む
でもそれを引き裂くのはあなた
この家は私の住む場所じゃない
あなたが建てた家だから
一人で起きたくない
心が折れるのはイヤ
ダメで意気地無しで我慢しちゃう……

と漏らす。

男社会での精神的な拘束を嫌いながら、自らを縛ってしぶしぶ男社会に順応しようとする自分を嘆いている。動画に次々と登場するさまざまな肌の色や体型の裸の女性は、そんな煮え切らない気持ちとは対照的な、不条理な束縛から解放された、本来の自由な女性の理想像なのだろう。YouTube動画の解説に、ローラ・ヤングはこう書いている。重要なメッセージなので、全文を訳しておく。

「私は、女は誰もが、間違いなくセクシーで、自由で、勇敢で、傷つきやすく、純粋で、パワフルだと信じるがために、この動画を作ることにしました。そのことを、私たちは隠すべきではありません。慎ましくあるべきでも、肉体を性的対象や禁断のものとして扱われるべきでも、男の目線だけで語られるべきでも決してありません。私たちには、自分の体をごく普通のものとして表現し、体型の違いが恥ずかしいこととされている現状を強く意識しつつ、その違いを受容する力があります。私は、この動画に登場する女性には全裸になってもらおうと考えました。セットの中のエネルギーは熱狂的でした。私の人生で、これほど力をもらったことはありません。乳首、お尻、脂肪のたるみ、妊娠線、セルライト、どれもが「完璧」なボディーで美しく映えています。これは女である私の個人的な体験です。私以外の女の人たちも、これが意味するものを自分なりに吸収してもらえたらと願います」

つまり、単なるボディーポジティブといったレベルよりさらに深い、もっと根源的な男女差別に関わってくる問題だ。「この家は私の住む場所じゃない、あなたが建てた家だから」という歌詞は、男が作った社会での女性の生きづらさを表している。

冒頭にモノローグを入れたのは、このMVにかけたスタッフ全員の思い、つまりこれは女性のエンパワーメントのための作品だという強い思いを明確に伝えるためであり、安っぽい性的自己満足と誤解されないためだとローラ・ヤングは話している。

監督は、イギリスで活躍する写真家で映像作家のオリビア・ローズ。テクノロジーにはまったく興味がなく、「ピクセル・アレルギー」であり、徹底してアナログのフィルムにこだわる。技術よりも出会った人たちにインスパイヤーされ続けたいと願っている。

ローズ監督は、ローラ・ヤングからオファーがあったときに、「この家は私の住む場所じゃない……」の部分に強く共感した。Promonewsのインタビューでオリビア監督は、女はどんなに頑張っても男が作った社会の中を渡り歩かなければならず、無理に肩肘張っていなければ尊厳を保てないのだと話している。また、ルネッサンス時代の女性の裸婦像に乳首が描かれないことに象徴される、女性の体を「検閲」するような習慣も馬鹿らしいと感じていた。

撮影の段階で、スタッフ全員の方向性はピッタリ一致していた。これだけ大きな根源的な問題に立ち向かうのだから、「徹底的にやらなければ意味がない」とオリビエ監督は考えた。そこで、「裸を想像させるもの」ではなく本当の裸を撮ることにした。これは決して「男の視線のためのセクシー動画ではなく、あくまで女性自身、本人のためだけのもの」だ。だからこそ、ライティングやアングルを駆使して、品のいい映像を作り上げた。

オリビア監督は、良からぬ輩にスクリーンショットを撮られてネットで悪用されることを恐れ、ローラ・ヤングだけは裸にならずに撮影する方法を考えていた。だが事前に本人から電話があり「35歳になったときに後悔するような行動はとりたくない」と伝えてきた。この言葉が、制作工程全般にわたりオリビア監督に大きな影響を与えた。彼女自身が35歳だからだ。そうして、裸でいこうと決めた。

撮影当日、ローラ・ヤングはもちろん、オリビア監督もTシャツとブラジャーを脱いで撮影を行った。カメラの前のモデルには、ローラ・ヤングとオリビア監督は彼女たちの“チアリーダー“となって励ました。それを見ていた数名の女性スタッフも、服を脱ぎ捨てて駆け寄ってきた。スタジオは、大変な熱気に包まれ、大いなる自由を感じたという。

男女差別はほとんどすべての文明にも、民族にも、国にもある根深い問題だ。「女らしさ」とか「男らしさ」とか、自分でもハッキリ説明できないような曖昧な観念で自分も他人もぐるぐる巻にしないと道も歩けないような困った大人には絶望感しかないのだけど、このMVには男のボクも勇気をもらいました。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。