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Reel

スプリットスクリーンで72組のアスリートの映像を
絶妙にマッチング Nike「You Can’t Stop Us」

金井哲夫 金井哲夫 Sep 18 2020

ナイキが公開した「You Can't Stop Us」の動画はもうチェック済みだろうか? コロナ渦のなかでさまざまなスポーツ大会が中止となっている今、異なる種目の映像を組み合わせ「私たちはひとつだ、私たちを止めることはできない」と強く訴えかけてくるこの映像は見ているだけで胸がじんと熱くなる。

dir
Oscar Hudson
ed
Peter Wiedensmith, Jessica Baclesse
prod co
Pulse Films
ag
Wieden + Kennedy Portland
m
Cowboys in Japan
DoP
Logan Triplett
VFX
A52
content sourcing
Stalkr
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7月30日にナイキがインターネットで公開したキャンペーン動画「You Can’t Stop Us」(私たちを止めることはできない)は、24種目のスポーツをプレイする53人のアスリートによる実映像を左右半分に割った画面の両側に配置し、まるでひとつの映像であるかのようにマッチングさせている。新たに撮影した映像も含めた72のカットから、36の組み合わせクリップを作り上げたという力作だ。

It’s Nice Thatの記事によると、この動画に使われた映像は、数カ月もかけて4000本以上のスポーツ関連動画からマッチするものを選び抜いた結果だという。これには、映像データのソーシングを行う会社Stalkrが大きく貢献した。さらに、実際の映像に合わせて新たに撮影されたものも含まれている。ただし撮影期間はわずか5日。元の映像の人の動きはもちろん、似たようなロケーションや照明やカメラの角度にも細心の注意を払った。オリジナルの映像をエミュレートする特別なカメラフレームも使用されている。

このナイキの動画では、4000本ものスポーツ関連動画から72本を厳選し、そこから36のペアを作っている。同じ動きをしている人を探し出すだけでも大変だろうに、それをあたかも1つの映像であるかのようにピッタリ合わせる編集とVFXの力と、なによりその気概と根性に感服する。

ここには、大坂なおみをはじめ、ロサンゼルス・レイカーズのレブロン・ジェームズ、セリエA・ユヴェントスFCのクリスティアーノ・ロナウド、リオオリンピックの男子マラソン金メダリスト、ケニアのエリウド・キプチョゲ、そしてナレーションを務めているナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ・レインFCのミーガン・ラピノーなど、著名なスポーツ選手が数多く登場する。

ナレーションの内容はこんな感じ。

私たちは決して一人ではない
それが私たちの強みだ。
なぜなら、不安を感じたとき、
私たちはひとつになってプレイするから。
抑えつけられれば、
私たちはより遠くにより激しく進もうとする。
私たちを甘く見ているなら
間違いを思い知らせてあげる。
スポーツが状況に合わないのなら
スポーツのほうを変える。
もちろん、うまくいかないことだってある。
「世界中のスポーツ大会は延期または中止になっています」
でもそれがなんであれ、私たちは諦めない。
不条理に遭遇すれば
私たちは力を合わせて変化を起こす。
「私たちには責任がある……」
世界をよりよくするための。
どんなに状況が深刻化しようとも
私たちはいつだって、もっと強くなって帰ってくる。
なぜなら、私たちが力を合わせてできることは
何者にも止めることができないから。

そして最後に「You Can’t Stop Sports」(スポーツは止められない)とテロップが示されるが、「Sports」が「Us」に書き換えられ、このキャンペーンのタイトルである「私たちを止めることはできない」となる。これはアスリートだけの話に留まらない。スポーツ関係施設で働く人やスポーツで遊ぶ子どもたちも含まれている。さらに、ブルカ姿でスケボーに乗る少女がレインボーフラッグを掲げる青年に切り替わるシーンには、政治的意図が見えて不適切だとの批判もあったようだが、ナイキはあえてそこも含め、我々は負けないと宣言しているわけだ。この「You」とは、新型コロナウイルスであり、またパンデミックに疲れ切ってすさんでしまった人の心でもあるのだと推測できる。

このナイキのキャンペーン動画には、映像による強烈な説得力がある。とくに、異なる種目の映像を組み合わせて「私たちはひとつだ」というキャンペーンの趣旨を強調している点は素晴らしい。アイデアと卓越した映像技法で、見慣れたスポーツシーンを感動の作品に高めている。「シンプルなアイデアだが、その陰には膨大な量の苦労が隠されている」とハドソン監督は話している。まさに、制作者たちの努力と根性は、激しく肉体を酷使するアスリートたちにも負けない。そこを知ると、この映像の説得力はさらに高まる。

音楽は、Cowboys in Japanの「Daylight」。これがまた、じんわり来るんだな。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。