青く長い髪型から「ラリった初音ミク」と称されるアシュニコは、前作「Stupid」(バカ者という意味)のMVで自分を裏切った元彼を斧で殺してまわり、今回の新作「Cry」では、自分の彼氏と寝た女を八つ裂きにする。
何も彼女は残虐を志向する危険人物というわけではない。DAZEのインタビューによれば、彼女はアメリカの保守的な地域の、比較的保守的で男尊女卑の傾向がある(その地域では当たり前の)ごく普通の家庭に育ったという。しかし、大きくなってからSNSで女性解放主義について知って衝撃を受け、ジェンダーや性的指向について独学で勉強した。
ボーイフレンドから手ひどい仕打ちを受けたり、ネットで心ない書き込みをされたり、辛い思いをたくさんしてきた。とくに、ラップ・アーティストのためのプラットフォームGeniusでMVを作っていた時期は、MVの視聴者は男ばかりで、罵声を浴びせられ、音楽業界で女性でいることは「馬鹿みたい」だとまで感じていた。「男の4倍のクソを食らう」と話している。
そんな悔しい思いを重ねてきた彼女は、自分を奮い立たせるために歌を書いている。彼女の歌を聞いたとき、女の子たちに自信を持ってもらうためだ。
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「Cry」に登場する顔が3つの怪物はアシュニコ自身。乗っていたメカが爆発して宇宙に投げ出された彼女は、妖精の力によって怪物に変身した。その変身シーンはセーラームーンっぽいけど、彼女の腕にはムーンスティックの絵のタトゥーがあるそうで、セーラームーンを意識していることは確かだ。ただし、正義の味方の美少女戦士ではなく、「お仕置き」をする怒りの化身だ。
アシュニコの手首に刻まれたムーンスティックのタトゥー。
監督は、映像作家でアニメーターのマイク・アンダーソン。アメリカの美術大学ロードアイランド・スクール・オブ・デザインで絵画を学んだが、映像制作とアニメーションは独学。作品はちょいとグロい感じのものが多く、ほぼすべてにヘンリー・ムーアの彫刻みたいな胴体の一部が欠損した異形の人物が登場する。
代表作に、SXSW 2017でプレミア公開され、360度動画として初めてVimeoの「Best of the Year」賞を獲得した「the Giant」がある。アンダーソン監督の多くの作品がそうであるように、粘土でキャラクターやセットを作り、すべてを3Dスキャンして、モーションキャプチャーと組み合わせてデジタル・アニメーションに仕上げている。
「Cry」は、粘土ではなくフルCGによる3Dアニメーションだ。アニメっぽくて、3Dゲームっぽいけど、スピード感が気持ちいい。文明崩壊後の世界を舞台にしたアドベンチャーゲームが大好きというアシュニコの世界観にも、びったりはまっているようだ。