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Roneと(LA)Hordeのコラボによる2時間の舞台
「Room With A View」を凝縮発展させたMV

金井哲夫 金井哲夫 Aug 19 2020

仏のRoneとマルセイユ国立バレエ団の芸術監督を務める(LA)Hordeのライブパフォーマンスがコロナで中止となり、約2時間の演目を4分半に凝縮したMVを公開。これが実に良い。ただの凝縮だけには留まらず、劇場の外の世界への広がりも持たせた最高の映像なのだ。

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(LA)Horde (Marine Brutti, Jonathan Debrouwer, Arthur Harel)
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Rone
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フランスのエレクトロニカ・アーティストでありプロデューサーでもあるRone(ローン)ことエルワン・カステックスは、今年の初め、マルセイユ国立バレエ団の芸術監督を務めるディレクター集団(LA)Horde(ラオルド)と共同で、音楽とダンスによる実験的なライブパフォーマンス「Room With A View」を企画制作し、Roneと20人のダンサーによる公演をパリのシャトレ座で3月5日から14日まで行う予定だった。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で「Room With The View」を始めとするすべての公演が中止となってしまった。そこでシャトレ座は、7月2日からバーチャルイベント「après demain」(明後日)の開催を決定。Roneたちはそこで、本来2時間の演目を4分半のMVに凝縮したデジタル版「Room With A View」を公開することに決めた。それが、この動画だ。ただ凝縮しただけではない。舞台では表現できなかった演出や、劇場の外の世界への広がりも持たせてある。

(LA)Hordeは、振付家のマリーヌ・ブルティ、ビジュアルアーティストのジョネトン・ドゥブロウイ、俳優で映画監督のアチュール・アレルの3人組。公演前に行われたLe Magazineのインタビューでは、「エルワンから、私たちの専門とは違う場所から、一緒に実験をしたいと話を持ちかけられた」と話している。話し合いを重ね、互いに見つけ出した共通の方向性は、ダンス作品をいっしょに作り上げながら、新しいアルバムも同時に制作するというものだった。(LA)Hordeにとっては、Roneとともに音楽を作りながらストーリーを考え劇作するという、新鮮なものとなった。

「心に響く、疑問に感じる、深く考えさせられる共通の主題について話し合い、そこから何が現れるかを見ました」と(LA)Horde。実験の形には、インスタレーション、振り付け、フィルムなど、こだわりはなかった。

「この作品は憤慨への招待です」と(LA)Hordeは話している。環境破壊によって人々が暴動と破壊を繰り返すうちに、世界が崩壊するという流れだ。環境破壊の危機を強く訴える内容で、「崩壊学」を強く意識しているものの、そのアプローチは前向きだ。

(LA)Hordeはこう説明している。「自分たちがモラリストだとは思っていない。ただ、今の世界で何が起きているのかを、緊急に把握する必要があると考えている。どう行動しろとか、何をすべきかはあえて言わないが、この気候変動の最中、科学者や活動家や気候変動懐疑主義者など考え方の違う人たち同士の衝突が発生し、そして人類が変わろうとしているこの時期に大きな争いが起きている。その問題は我々全員で対処しなければならない」

じつはRone自身、世界の崩壊が近づいているとは感じていたものの、やや楽観視していた。舞台の一部でダンサーたちがマスクを着ける場面があるが、それは彼の頭に浮かんだ世界崩壊のイメージだった。そして新型コロナウイルスが流行し始めると、客席にもマスクをしている人たちが増えた。ステージからその様子を見たRoneは「ステージと客席との間にミラー効果が起きてる」と大変に焦った。崩壊は「ものすごいスピードで追いかけてきている」と実感したという。

以前から環境問題には関心が高かったRoneは、環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏グレタ・トゥーンベリ氏の気候変動問題を解決する自然の力を訴える動画「Nature Now」に曲を提供するなどしている。

また、同アルバムに収録されている「Nouveau Monde」(新世界)は、「Room With A Viewの中心的な作品」とRoneが話しているが、そこでは天文物理学者のオーレリアン・バロー氏と作家のアラン・ダマジオの、世界の崩壊に関するテレビインタビューの談話が使われている。ちなみに(LA)Hordeはダマジオの影響を強く受けていて、グループ名は同氏のSFファンタシー作品「HORDE du Contrevent」から取られている。

「Nouveau Monde」の中の談話から、舞台の主張が見えてくる。内容はざっとこんな感じ。

オーレリアン
個人の好き嫌いや人間関係や政治的信条や哲学とはまったく関係ない。
ただ問題は、消費を少しだけ減らそうということ。
世界の終わりではない。

アラン
私たちは世界を作ることができる。
エコを気にしてローテクなパーマカルチャーに生きる人たちもいるが、
ロウソクにまで戻る必要はない。

オーレリアン
想像力を新たにする。
つまり新しい神話を描くのだ。
シンボルを作ろう。
そこが重要な戦いになる。
私たちの行動は絶対的なものではない。

アラン
人々の認識を変えさせることができなくても、
自分の認識を変えられなくても、
アートなら変えられる。
知識や情報で変化は起こせない。
突然に意識が変わったという事実があるだけだ。

MV版も(LA)Hordeが監督している。言い争いを続けるダンサーたちは、やがてひとつの塊となって劇場の外の新しい世界へ飛び出してゆく。これが「Nouveau Monde」で語られていた新しい神話のシンボルということなのかしら。怒りがテーマになってはいるが、明るい未来の可能性が感じられる。

さらっと短いけど、この動画のメイキングはこちら

(協力・乗越たかお)

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。