AWAL(Artists Without A Label:レーベルを持たないアーティスト)という、新人アーティストと起業家とを結びつけて、アーティスト本位のレコーディングと配信を行うロンドンのレーベルから5月に発表されたショートフィルム「A World Artists Love」(アーティストが愛する世界)がなかなか深い。作品中にAWAL所属アーティストの名前がちょこちょこ出て来るプロモーション動画なのだけど、よくよく見ると、どうやって撮影したのか、すごく知りたくなる。
監督は、アニ・アコピアン。まだメジャーな仕事はしていない25歳の新人監督だが、従来型の撮影方法にこだわらない実験的な映像を積極的に制作している。また、白人の立場から人種差別反対運動にも力を入れている。
お気づきのとおり、この作品はドローンで撮影されたものだが、ドローン本体はこのために作られたオリジナル機種。スパイク・ジョーンズ監督作品「Pretty Sweet」の撮影も手がけたドローン映像作家ロバート・マッキントッシュ氏が自作した、わずか120グラムの、手のひらサイズのFVPドローンで、GoPro Hero6(の中身)が組み込まれている。小さいからこそ、車の中を通り抜けるなどの芸当ができた。また、マッキントッシュ氏が開発したスタビライザーソフトReelSteadyで、映像の振動を打ち消している。
ワンカットで撮られているように見えるが、じつは数日間かけて撮影した5つのショットを合成している。しかし、公道や一般の店舗を使っているために時間的な制約があり、後で1本につなげるために光線や天候や撮影開始と終了の位置などの条件を揃えないといけない。TechCrunchの記事でアコピアン監督はこう話している。
「出演者を配置し、ドローンの飛行経路の交通を遮断してリハーサルを行うのは不可能でした……なので難題は、毎朝、現場に集まるごとに、ドローンの飛行経路、出演者の配置や動き、視覚効果用マーカーを調整して、そこから日が沈む2時間前までにできるだけリハーサルを重ねることでした」
シーンのトランジションを行う位置(マーカー)を撮影前に設定した視覚効果スタジオAlpha Studiosのケイトリン・ヤング氏の活躍も大きかったと監督は言う。
アコピアン監督は、ドローン撮影の未来に期待をかけ、こう話している。
「高く飛ばす必要はないんです。ドローン、とくにレース用のFPVドローンには、記憶が呼び起こされる感じを美しく再現してくれる、流れるような感覚があります。もっと多くの人がこれを試して内的体験を再現してくれるようになれば、新しい物語の手段が生まれるだろうと私は期待しています」
アコピアン監督の最新作は、新型コロナ前の賑やかな野外コンサート会場の様子を撮影した「Send to Vince!」。360度カメラを彼女から前の人へ順送りにして、ステージで歌っているビンス・ステープルの手に渡るまでを撮影した動画を編集したものだ。これまたいいアイデアが生きた絵になっている。