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ブルータリズムにインスパイア
無人の街が動くダヴズの「カルーセルズ」

金井哲夫 Jul 27 2020

2010年から活動を休止していたイギリスのロックバンド「ダヴズ」。11年ぶりとなる彼らの新曲MVはブルータリズムにインスパイアを受けて作られた作品。見ているだけで自分を解放し気持ちがぐるぐる回る。

dir
Yoni Weisberg
prod co
Chief Production
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2010年から活動を休止していたイギリスのロックバンド「ダヴズ」が11年ぶりにオリジナルメンバーで新曲「Carousels」(カルーセルズ)を発表した。MVを制作したのは、イギリスのヨニ・ワイスバーグ監督

彼は子どものころ、よくお母さんとレンタルビデオを借りて見ていたのだが、その中のひとつ「エルム街の悪夢」にはまってしまった。それをコピーしたビデオカセットを戸棚に隠し持っていたほどだ。それを機に、映画に興味を持つようになった。とくにホラーとSF。当時、自らがスパイダーマンとして出演する映画も自主制作している。現在は大手ブランドのCMやMVを数多く手がけているが、映画を撮りたい気持ちを常に持ち続けている。

美術大学でグラフィックデザインと映像を学び、カメラと照明の専門技術を身につけたころ、彼は自身の人間への愛着に気づく。そんなワイスバーグ監督を代表する作品に、「ショートホラー」と自らが呼ぶショートフィルム「The Third Hand」(第三の手)がある。さえない平凡なサラリーマンの業が、ホラーの形で描かれている。

いろんな人と話し合いながら作品を組み立てゆくのが好きというワイスバーグ監督は、このMVの制作も、「才気あるパートナーであり最高に協力的」と称賛するダヴズのメンバーと一緒に進めている。独創的なアプローチを考える段階から全面的に協力してくれたという。それもそのはずで、そもそも建物をテーマにするというアイデアはダブズのアンディ・ウィリアムズのものだからだ。

ダヴズのメンバーのアンディとジェズは双子の兄弟だが、父親はイギリスのモダニズム建築を代表する著名な建築家デスモンド・ウィリアムズ。ちなみにアンディも大学でインテリアデザインを学んでいる。今回のMVを企画する際にアンディは、幼なじみでモダニスト建築雑誌の編集者をしているエディー・リードのオフィスで見た、モダニスト建築の発展型であるブルータリズム建築の写真集に魅せられ、これを使いたいと決めた。そして、ブルータリズム建築を取り入れたMVの監督を探すうちに、ワイスバーグ監督に出会ったというわけだ。

MV制作は、新型コロナ禍真っ盛りの時期に行われた。Promonewsのインタビューでワイスバーグ監督はこう話している。
「このプロジェクトを開始したとき、世界はまったく違うところにありました。しかし今から思えば、私たちが知っている世界を映像化するという考えを大転換して、ほとんど認識できないものを作ろうという方向に切り替えられたのは、偶然の産物でした」

人間が大好きという監督だが、あえて人が登場しない映像にしたところに、建築、しかもブルータリズムというきわめて直線的な人工物を通して、より深い人間性がじわじわと感じとれる。エフェクト・アーティストとして活躍していた時期もあり、グラフィックデザインの基礎もあるワイスバーグ監督の映像だけに、アニメーションとして引き込まれるばかりか、どこを切り取っても美しい絵になっている。

歌は、違和感を覚えつつも街にしがみつく自分を解放して、気持ちがぐるぐる回る、懐かしいところへ帰ろうと訴えている。ダブズによると、その懐かしいところとは、子どものころに行ったお祭りや、初めて大音響の音楽を聞いて感動したコンサート会場を意味しているとのこと。街の建造物が、まさにカルーセル(回転木馬)となってぐるぐる回り、その場所へ戻ろうと促しているようにも見える。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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