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「ワザー!」で全米を笑わせたバドワイザーのCMが
新型コロナ騒ぎで戻ってきた

金井哲夫 Jun 4 2020

「ワザー!」で全米を笑わせたバドワイザーのCMの新シリーズが公開!? ……がしかし今どきの自宅待機の様子だと思いきや、実は1999年12月にネットで流されたバドワイザーのCMを焼き直したもの。

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Charles Stone III
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バドワイザーの瓶を片手に暇そうにテレビを見ている若者のところへ電話がかかってくる。
「よお、何してる?」
「別に。ダラッとして自宅待機でバド飲んでる。お前は?」
「別に。自宅待機でバド飲んでる」
そこへ別の男が来て「ワザー!」と叫ぶ。その後は、みんなで「ワザー!」の応酬。最後に「バドは友情をつなぐ」といったメッセージが出る。

今どきの自宅待機の様子だと思いきや、よく見れば、スマホじゃなくて家の固定電話で話してる。じつはこれ、1999年12月にネットで流されたバドワイザーのCMの焼き直し。「何してる?」と聞かれた男性は、オリジナルでは「ゲーム見ながらバド飲んでる」と答えている。そこを吹き替えて新型コロナ版にしたというわけ。

もともとは、1999年、ドットコム・ブームの最中、制作会社フルーイド・コンテントが、「最近流行のインターネットにクライアントが怯えているので、どうやって使うべきかを教えてやる」ために社内コンテストを行ったのがきっかけだった。お題は自分の信念、つまり「真実」。アートでも映画でも音楽でも、できるだけ多くの人の目を惹きつけるものなら形式は問わないというものだった。

それに応えて、チャールズ・ストーン3世(監督した長編映画で日本でもよく知られているものに「ドラムライン」がある)が3分間の「Truth」(真実)というショートフィルムを制作した。若者同士は、すべてを語らずとも真意を伝え合えるというのがストーン監督の「真実」だ。それが「ワザー!」の応酬だった。

ちなみに、ワザー! ってのは「What’s up?」(調子どうよ?)みたいな軽い挨拶の言葉が変化したもの。さらにちなみに、最初に電話を取る寝ぼけ顔の男性がチャールズ監督本人。

「Truth」は全米のフィルムフェスティバルで人気となり、さっそくバドワイザーとの契約がまとまり、同年12月にCMが公開された。

これが、アメリカの広告専門紙Advertising Age(現Ad Age)で20世紀のトップ広告13位に選ばれるほどの大人気となり、シリーズ化され、今日までさまざまなバージョンが発表されている。2018年の「Whassabi」も、かなり馬鹿馬鹿しくて笑える。

また、2008年、リーマンショックとイラク戦争でアメリカが極度に落ち込んだときには、アメリカ大統領選挙のオバマ氏を応援する動画として、これが使われた。タイトルは「True Vote」(真の投票)バドワイザーの最初の「Whassup」に出演していた連中が、ブッシュのおかげで8年後はこうなったと批判し、オバマが「True」だと主張している。

これはチャールズ監督が、ポケットマネー6500ドル(約70万円)を投じて9日間で制作したもの。「ただ金を寄付する以上のことがしたかった」とチャールズ監督。バドワイザーとは、2000年に、コンセプトのライセンス料としてチャールズ監督に3万7000ドル(約400万円)を支払う契約が交わされていたが、2008年にはとっくに契約は終わっていたので、チャールズ監督は自由に作ることができた。

この他に、バドワイザーは現代版の「ワザー!」CMも制作している。プロバスケ選手のドウェイン・ウェイドのところへ、マイアミヒート時代のチームメイトであるクリス・ボッシュからビデオチャットが入ってくる。そこへ女子プロバスケ選手のキャンディス・パーカー、DJのD/ナイスが参加する。パーカーが「ガブリエルは?」と聞くと、ドウェインの妻で女優のガブリエル・ユニオンもカメラに入り、「ワザー!」の応酬。

ガブリエルが「みんな大丈夫?」と聞くと、クリスが「家族も元気だよ、みんなに会えて本当によかった」としみじみ語る。最後に、「今ほどつながってることが大切な時期はない。連絡を取ろう。それがWhassupだ」とメッセージが出る。その背後で「異常なときだけど、大丈夫だ」「ああ、ほんとほんと(True)」と話が続いている。

こちらの監督はチャールズ・ストーン3世ではなく、2019年のスーパーボウル用に別のビール会社のCMを監督していたオール・サンダース。このCMは米救世軍とのコラボで、自宅待機で精神的に参った人の話を専門家が聞くサービスの告知にもなっている。バドワイザーもこれに関連して、Instagramでみんなで「ワザー!」しようという企画を、毎日、東部標準時午後6時に行っている。

さらに、バドワイザーは5月26日のアメリカ戦没将兵追悼意念日に合わせて、「尊い犠牲を払ったこの人たちも讃えよう」というキャンペーン動画も配信した。午後3時には倒れた軍関係者に、午後3時1分には最前線で働き倒れた人たちに、一緒に黙祷を捧げようと呼びかけている。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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