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コールドプレイの「Trouble In Town」は現代版「動物農場」

金井哲夫 Apr 20 2020

コールドプレイの「Trouble In Town」MVに登場するのは全員が動物。一見コミカルだが、ジョージ・オーウェルの小説「動物農場」をベースにしたディストピアとなっている。小説は当時の共産主義国家を皮肉った話なのだが、それは今のアメリカの民主主義社会にも、そのまま当てはまっている。

dir
Aoife McArdle
prod
Somesuch
DoP
Mauro Chiarello
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コールドプレイのニューアルバム「Everyday Life」に収録されている「Trouble In Town」は、現代の社会体制と人種差別を批判する歌。「because they hung my brother Brown」(やつらがオレのブラザーのブラウンを吊したから)という一節は、2014年に白人警官に射殺された当時18歳のマイケル・ブラウンのことを言っているのは明らか。 警官は不起訴になり、暴動に発展した。アルバム収録バージョンでは、威圧的な警官と市民との実際の会話の音声が挿入されている。

MVの舞台は荒廃した夜のニューヨーク。でも住人は全員が動物。一見コミカルだが、ジョージ・オーウェルの小説「動物農場」をベースにしたディストピアだ。ホームレスの鹿が「動物農場」(Animal Farm)の本を読んでいることからもわかる。

1945年に発表された「動物農場」は、不平等に苦しむ農場の動物たちがブルジョアジー(人間)に勝利して平等な社会を築くものの、指導者たちは次第に特権階級化し、陰謀と格差と暴力の社会になってしまうという、当時の共産主義国家を皮肉った話なのだが、それは今のアメリカの民主主義社会にも、そのまんま当てはまるって感じ。

動物農場ではブタがリーダーとなって権力抗争を繰り広げる。このMVの世界でもブタが政治家になっていて、街にはブタの選挙ポスターがたくさん貼られている。28秒あたりでタクシーの窓から見える政治看板には、「動物農場」でブタたちが唱えていた「すべての動物は平等だ」「だが一部の動物は他の動物よりももっと平等だ」というスローガンが書かれている。テレビでは選挙討論会が開かれ、ブタたちが醜い乱闘を繰り広げる。

脚本と監督は北アイルランド出身の映像作家イーファ・マッカードル。イングランドのトリニティー大学で映画とテレビ番組制作の修士号を取得している。2008年に雑誌GQのCMで監督デビューし、いきなりカンヌライオンのブロンズライオン、パリのザ・アートディレクターズ・クラブのベストコマーシャル賞を受賞した。2017年には長編映画「Kissing Candice」の脚本と監督を務めている。

このMVもそうだが、マッカドール監督は、脚本と監督を同時に行うことが多い。2018年にアイリッシュ・フィルム・インスティテュートで行われたインタビューでは「すべてのプロジェクトで脚本から関わるようにしている」と話している。脚本を書くことでビジョンが明確になるし、そのほうが仕事が早いとのことだ。

動物のメイクはイギリスの特殊メイクやアニマトロニクスのスタジオMillennium FX。この歌の収益の一部は、ボーカルのクリス・マーティンが「イノセンス大使」を務めるDNA鑑定で冤罪を証明する非営利団体イノセンス・プロジェクトと、貧しいアフリカの子どもたちに食事を与える非営利団体アフリカン・チルドレンズ・フィーディング・スキームに寄付される。

最初に「ディストピア」って書いたけど、動物キャラでカリカチュアライズされてるだけ、ほぼ現実のまんまだよね。この搦め手の説得力がすごい。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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