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NEWREELが選んだスーパーボウル2020テレビCM7本

金井哲夫 Apr 2 2020

毎年2月上旬に開かれる全米一のフットボールチーム決定戦「スーパーボウル」。試合はもちろんだが、試合中のテレビCMでもスポンサー同士の熱き戦いが巻き起こっている。今年も遅ればせながらNEWREELが選んだスーパーボウル2020のCMをご紹介。

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アメリカのプロフットボールリーグNFLが毎年2月上旬に開催する優勝決定戦スーパーボウル。第54回となった今年は、米ニールセンによるとおよそ1億人のアメリカ人がテレビで観戦したという。アメリカの人口が約3億2000万人だから、視聴率は30パーセントを超える。

そのスーパーボウルの呼び物は、試合の他にテレビCMがある。さまざまな企業や団体が、1億人が注目するこのチャンスに、思いっきり力を入れたCMを制作して放映する。もちろん、放映料もめちゃくちゃ高い。今年はFOXが中継したのだけど、テレビの30秒枠でおよそ6億円。ストリーミングのみでも4000万円ほど。だから制作にも一層力が入る。このときだけ見られる秀逸なCMも、年に1回の楽しみになっているわけだ。

というわけで、NEWREELが気になった7つのCMを紹介しよう。中継後にオンラインでもっとも多く見られたAmazonの「Before Alexa」は、こちらで個別に紹介しているので見てね。

Squarespace

Squarespaceというウェブ制作ツールのCM。女優のウィノナ・ライダーが、ミネソタ州の小さな街ウィノナを訪れ、その街のウェブサイトを作るという話。

ライダーが道端の雪の中に寝転んでいると、警官がやって来る。
「何やってんですか?」
「ウェブサイト作ってるの」
「なんの?」
「ウィノナの」
「へえ」
「写真入り」
「私も写真は好きだよ」
「私も。だから作ってるの」
「へえ。じゃあね」
それだけ。なんでもない内容なんだけど、これがまたいい。

ウィノナはライダーの故郷であり、街の名前がライダーの本名にもなっている。この30秒のCMには、スーパーボウル開催前にYouTubeで公開された3分間の予告編がある。ライダーが自分の名前にもなっている故郷で自分探しの旅と称して、写真を撮りながらウィノナの街を歩き、住人に話を聞いてまわるというもの。レストランのウェイトレス、ジョアンが相談に乗ってくれるが、「本当のウィノナを知りたい」と話すと、「それなら、プリーザントバレー・ロードとミシシッピに挟まれたすべてよ」などとトンチンカンなことばかり言うのが笑える。

本番の短いほうのCMでは街のことがひとつも紹介されてないため、ウィノナのピーターソン市長はちょっとがっかりしたそうだ。

ライダーがSquarespaceで作った(とされる)ウェブページはこちら。予告編の中で「写真集を出したいのよ」と話してた本が実際に買える。

NFL Next 100

これはスーパーボウルの主催者であるNFLのCM。走っている少年は、マックスウェル・(バンチー)・ヤングくん13歳。9歳のときに100メートル走で12.4秒を記録し、10歳クラスの世界記録を破ったことで注目を集めた。持ち前の足を活かして、少年フットボールチームではランプレイで大活躍し、イリノイ大学からはフットボールをプレイするための奨学金も贈られている。YouTuberでもある彼は、大人気のスポーツ少年というわけ。
CMでは、彼がボールを持って走り出すと、近くで見ていた老人(60年代にクリーブランド・ブラウンズで活躍し、とにかくよく走ることで知られていた元プロフットボール選手)が「Take it the home, kid」(家に持って帰れ)と呟く。これはフットボールの世界では「ランでタッチダウンを決めろ」という意味。
少年があちこち走る間に、往年のフットボール選手がカメオ出演しては「Take it the home, kid」と声を掛ける。
最後にスタジアムに到着すると、そこにも名選手たちが列を作って待っている。ボールを受け取りフィールドに出る。
じつは、ここから先は実際にはライブ映像に切り替わっていた。つまり、実際にマックスウェルくんがボールを持ってフィールドに走って出てきたというわけ。
主催者ならではの演出だね。往年の名選手もぞろぞろ出て来るし、フットボールファンにはたまらないCMだ。
監督はマックス・マルキン

Rocket Mortgage

住宅ローンの会社ロケット・モーゲージの「住宅ローンも家と同じように快適でなければ」というキャンペーン。映画「コナン・ザ・バーバリアン」のコナン役や、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のカール・ドロゴ役などで知られる筋肉ムキムキ俳優ジェイソン・モモアが家に帰ると、「家は聖域。鎧を脱ぎ捨てて自分に戻れる」と筋肉を脱いでゆく。
実際には、うんと痩せた人にモモアとまったく同じ動作をしてもらった映像を合成している。メイキング動画でもわかるが、意外にアナログなことをやっている。監督はデイビッド・シェーン

Cheetos

80年代の大ヒット曲「U Can’t Touch This」と共にM.C.ハマーが復活したと話題になったチートスのCM。チートスを食べると指にチートスの粉が付いて物が触れなくなる、あの困った現象を逆手にとった自虐ものだ。
これには予告編がある。1989年、オークランドの自宅でM.C.ハマーがチートスを食べながら、思いついた曲を口ずさみつつピアノを弾こうとしたが、指がチートス色になってる。「Hey, I can’t touch this!」(触れないじゃん)と呟き、ハッと気がつく。そこからあの名曲が生まれたって話になってる。この予告編を見てから本編を見ると、話の脈絡がもうちょっと納得できる。
チートスの他にも、CMの予告編や背景の物語を事前にネットで流すところがいくつかあった。CMそのものの枠を超えた見せ方も、いろいろ変わってきてる。

Coca-Cola Energy

パーティーで孤立して間が持てないマーティン・スコセッシが、メッセージアプリでコメディー俳優のジョナ・ヒル(実生活でも仲良し)を呼び出すが、なかなか返事が来なくてヤキモキするというコカ・コーラ エナジーのCM。
スコセッシ監督がヒルに「まだ?」とメッセージ。ヒルは「なにが?」と返事。「パーティーだよ」と知らされる。ヒルはパーティーの予定をすっかり忘れてた。スコセッシ監督のスマホにはあの「相手が書いてます」のイラつく3点マークが出たきり。ニュースでは「ヒルがスコセッシをすっぽかすのか、世界が注目してる」と伝えると、3点マークの妄想が始まる。
早く来いとせかすスコセッシ。「ウェイターに間違えられた」とぼやく。
ようやくヒルはコカ・コーラ エナジーを飲んで元気をつけ、パーティー会場に向かう。
あの点々に目を付けたところがいい。100万パーセント共感できる。それに、アメリカでもパーティーが退屈だってことに共感する人が多数派なのかと想像できて、ちょいと嬉しい。
なぜこの配役になったのかと言うと、コカコーラ・ノースアメリカの戦略的マーケティング上席副社長ジェフ・コットリル氏の話によると、「現代のルネサンス男、彼の人柄と信念がコカコーラ エナジーにぴったり」とのことで、最初にジョナ・ヒルの名前があがった。そしてヒルに誰と共演したいかと聞くと、即座に朋友の「マーティー」と答えたそうな。ルネサンス男ってなんだ?
制作はSmith and jones。監督はウルフ・ジョナンソン

Google

GoogleアシスタントのCM。男性がGoogleで「忘れない方法」を検索する。軽度の認知症のようだ。「細かいことを繰り返すこと」と検索結果に書かれている。

男性はGoogleアシスタントに「ロレッタの写真を見せて」と命令する。
続けて「ロレッタは私の口ひげが嫌いだったことを覚えておいて」と命じる。
「ジュノーの近くの小さな街」を検索し、「ロレッタはアラスカとホタテが好きだったことを覚えておいて」と言う。
さらに、
「結婚記念日の写真を見せて」
「彼女は笑うときいつも鼻を鳴らしたことを覚えておいて」
「私たちが大好きな映画を見せて」
と続く。

Googleは、「覚えておくよう言われたことです」と、男性が言った内容のリストを示す。その最後には「ロレッタはいつも言っていた。私がいなくなってもあんまり悲しまないで。外に出なさい」とある。

「私は世界一幸せな男だと、覚えておいて」と男性は言う。
「ちょっとしたお手伝い」とテロップが出ておしまい。

声の出演をしている男性は、Google社員で、このCMの制作にも携わっているデザイナーの85歳のおじいさん。ロレッタは、本当のおばあさんがモデルになっている。YouTubeの再生回数は6000万回を超え、ご本人はとても喜んでいるとGoogleの最高マーケティング責任者は話している。制作はGoogle内部で行われた。

ところでこれは、Googleアシスタントの使い方ガイドにもなっている。このとおりに、「◯◯を覚えておいて」と言えば、覚えていてくれる。Google Photoを使っていれば、音声で写真の検索もできる、などだ。

Dashlane

Dashlaneはパスワード管理ソフトの会社。死神の船で三途の川を渡る男性が、その先の天国のような場所を見て喜んだのだが、死神にパスワードを要求される。「知らない」と答えると、死神は、最初のペットの名前、幼稚園の先生の名前、大きくなったら何になりたいか、とヒントを出してくれるが、うまく答えられない。そして、規定回数をオーバーしたと告げられる。

とにかく死神さんの仕草がかわいい。それだけ。

監督は、iPhone11Proが風洞実験室でいろんなものをぶつけられるあのCMも手がけたサム・ブラウン

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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