フォルクスワーゲンUSAが、昨年で生産終了となったフォルクスワーゲン・ビートルのお別れ動画「The Last Mile」を昨年末に公開した。1938年から生産が始まり、ビートル(カブトムシ)の愛称で親しまれたタイプ1から、途中でニュービートルにモデルチェンジされ、まあなんとなくビートルっぽいやつが続けて作られてきたのだけど、とうとう生産終了となり、昨年7月にメキシコ工場から最後の1台が送り出されて80年の歴史に幕を閉じた。
ビートルと言えば、お金のない若者のみならず、あらゆる世代の庶民の足として世界中で愛された。昭和のころには東京でもたくさん走ってた。子どもたちの間では、1日にビートルを10台見ると幸せになれる、なんて都市伝説というか遊びが流行った。黄色を見るとゼロに戻るとか、ゴールドを見れば一発で完了とか、いろんな後付けルールができたりして、それだけいろんな色のビートルがたくさん走り回っていたってこと。
そんなビートルを、感謝を込めて見送ろうというのが、この動画だ。もう作らない車の宣伝をするってのも妙な話だけど、それだけビートルは特別であり、ひとつの文化だったわけだね。
主人公は、子どものころにお父さんが買ってきたビートルに初めて接し、ビートルで運転の練習をし、お父さんから引き継いだ後も、ビートルと共に人生を歩む。最後、無人のビートルが年老いた主人公に見送られて天に召されていく。いやあ、じーんと来る。
「The Last Mile」は、ロトスコープを使い手描きで制作されているが、この作品について、Fxゴビー監督はこう話している。
「限られたカラーパレットで、温かいノスタルジックな感じが呼び起こされる。すべてのフレームが、色の重なりとか、紙のテクスチャーとか、そんな味のあるアクシデントを残した版画であるかのような、温かくて質感のある作品にしたかった」
Fxゴビー監督はフランスに生まれ、フランス北部の街バランシエンヌにあるCGの大学スピンフォコムでアニメーションを学んだ。2006年に発表された卒業作品の「En Tus Brazos」は、2007年のSiggraphアワード・オブ・エクセレンスなど数々の賞を受賞した。
その後、ロンドンに移り住みNexus ProductionsでCMやMVの制作に携わっていたが、2016年に発表したショートアニメーション作品「To Build a Fire」で転機を迎えた。
To Build a Fire
これは、19世紀のアメリカ人小説家ジャック・ロンドンの同名の小説を題材にした作品。この小説を読んだ彼は、子どものころのボーイスカウトでの体験と相まって、自然の怖さを強く感じたという。そして、これがきっかけで「友だちと映画を作るのが好きになった」という。それまではケチャップを血糊にしてアクション作品ばかり撮っていたが、「To Build a Fireには映画的なものを感じて、素晴らしいフィルムになると思った」そうだ。
最初のフレームを見ておわかりのとおり、たんまり賞を取っている。シンプルながら美しく冬の冷たい空気を感じさせる透明感のある絵に、言葉を使わず、効果音と、作曲家マシュー・アルバドが作曲しロンドン交響楽団が演奏する音楽を巧みに絡ませて、自然と運命の恐ろしさを見事に描いている。