ブラジルのミュージシャン、ブルーノ・ブルーニ(イタリア人版画家じゃないほう)の新曲「Tocantins」のMV。とにかく曲がめちゃくちゃかっこいいんだけど、MVはフィルムで撮影したみたいな素朴な感じで、これまたグッとくる。だけど、よく見ると、スーパー8のホームムービーみたいなテイストを装って、じつはけっこう凝ったことをやってる風でもある。
クレジットを見ると、監督、撮影、編集が、ペドロ・メデイロスとベト・ガローニとなっている。
メデイロス監督は、サンパウロのインターナショナル・スクール・オブ・シネマの出身。ドキュメンタリーフィルムからCMまで幅広く手がける写真家で映像作家だ。「シネマと写真を社会生活の再生と対話のためのプラットフォームにすることが自分の使命」だと話している。すごく真面目そうな人。
一方、ガローニ監督は、過去の作品と合わせ見ると、メデイロス監督よりも、やや砕けた印象を受ける。このMVの場合はガローニ監督のテイストが強く出ているようだ。
ガローニ監督によるレオ・クインテラの「Fumaça」のMVは、構成が凝っていて面白い。余計な広告が出まくるブラウザでMVを再生すると、MV自体がMVの撮影風景になっていて、最後にカメラが壊れて終了というメタな内容。雰囲気がなんとなく「Tocantins」に近い。
メデイロス監督とガローニ監督がいっしょに仕事をしている作品に、オ・サルエというバンドのMVもあるけど、こちらはドキュメンタリータッチ。メデイロス監督のテイストかと思いきや、クレジットではメデイロスさんは助監督となっている。
それにしても、どんなにググってもガローニ監督の情報がほとんど出て来ない。ブラジルが遠すぎるのか。なら直接聞くか、ということでベト・ガローニことアルベルト・ガローニ監督に質問メールを出したところ、快くすぐに返事をくれた。ブラジルは意外に近かった。というわけで、ここからはガローニ監督のニューリール独占インタビューです。
──この曲を聴いたときの印象は?
アルベルト・ガローニ(以降G) トスカンティは、ブラジルでもほとんど田舎の州なので、そこから自然に囲まれた場所でロケをしたいという動機が生まれた。複雑な構成の曲を聴くうちに、このアーティストが持っているクレイジーなものをすべて撮影するには、緩いアプローチが必要だと気付いたんだ。基本的に、森に行って、奇妙で可笑しなものを撮影して、未知の何かを吸収するという計画だよ。
──ペドロ・メデイロスさんと共同監督をされたのは、なぜですか?
G 私とペドロは、ずいぶん前からの友だち同士で、いつもアーティスティックなコラボをしてるよ。2年ほど前、2人で組んでサルエというブラジルのバンドのMVを撮影したんだけど、どちらも出来上がりと制作プロセスにはとても満足した。そこで、ブルーノ・ブルーニの曲でまた組むことにしたんだ。これからも2人で新しいプロジェクトをやると思うよ。
──映像の雰囲気がとてもいいですね。美しくて、それでいてユーモラスで、ブルーノ・ブルーニのキャラクターを楽しめます。このMVの背景となったアイデア、またはコンセプトは?
G 撮影の準備として、我々はそれぞれ2つの性格を持つ2つのキャラクターを作って、衣装と場所を変えて、異なる方法でその2人の人物描写をしたんだ。それぞれのキャラクターの2つめの人格はオルターエゴで、クレイジーな側面を持つ。この人格から伝わるムードを、歌のそれぞれのセクションのバイブに合わせてある。それが、MVを編集するときのスクリプトになってるんだ。
──使用したカメラなど、撮影方法を聞かせてください? 困難だったことはありますか? それは、どうやって克服しましたか?
G この作品の制作には大きな問題があった。予算だよ。なので、自前の、アマチュア用機材を使うしかなかった。Lumix G7とSony a6000さ。カメラはそんなによくないから、上等なレンズとフィルターで補った。使ったレンズは、ビンテージなソビエト製が2つ(Helius 44-2とJupiter-9)、これとは別のチープで適当な最近のレンズには、減光、偏光、パールセントの各フィルターを取り付けた。
民生用カメラを使って見栄えのいい映像を作るためのこうしたチープな方法が、じつは理想としていた画質へのガイドになってくれたんだ。あんまりHDらしくない、つまりシャープではない粒子のある感じさ。60年代から70年代の昔のバンドのMVを参考にして、16ミリカメラで撮影したような見栄えを追求した。その他、アシスタントをたくさん雇う予算がないので、少ないクルーでやらなければならず、いつもならオペレーションを助けてくれる高度な機材も使えなかったっていう苦労もあった。
なので私とペドロは、大抵、2台のカメラを使って2人で同時に撮影した。それを、1人のアシスタントが素晴らしいメイキング映像の写真を撮ってくれて、光の反射とか、我々が必要としていたすべての処理も手伝ってくれた。
ペドロはDJIのMavicドローンも持っていたので、それを飛ばしていくつかのセグメントを撮影してる。できるだけドローンっぽく見えないように、普通のカメラのように使ってみた。普通なら撮影できない位置に配置したり、動きを安定させるために使ったりもした。でも、他のカメラとのカラーマッチングがすごく大変だった。
結果的にクールな制作プロセスをもたらしてくれた、これとは別の障害に、我々の誰一人として、その牧場に行ったことがないという問題があった。そこは、ブルーノ・ブルーニの父親の友人の牧場なんだ。金曜日の夜に到着して、2つのキャラクターの撮影を2日間で終えなければならなかった。だから、衣装の違うキャラクター1人を半日で撮影するという計算だ。なので、いい光や場所を求めて、無計画に走り回った。土曜日の朝5時に目が覚めた時点では、何をどこで撮影するのか、まったく決まってなかったよ。
──日本のMVファンに何かメッセージをください。
G そしてプロの映像作家のみなさん、常に最高にアバンギャルドな作品を作り続けてください。日本から生まれる作品をずっとみてきました、いつもインスパイヤーされています!