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2019年もっとも活躍が目立った
イアン・ポンズ・ジュエル監督をご紹介

金井哲夫 Mar 4 2020

2019年、CMやMVなど10本を手がけ注目を集めたイアン・ポンズ・ジュエル監督。彼の作品はシュールでユーモラスな独特の雰囲気があるが、ほぼすべてにおいて強烈な風刺が効いている。NEWREELでは、いま乗りに乗っているジュエル監督の作品をいくつかご紹介。この機会にぜひチェックしてみてほしい。

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Ian Pons Jewell
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2019年、もっとも活躍が注目された監督はと言えば、イアン・ポンズ・ジュエルだろう。去年だけでなく、それ以前からかなりの勢いでCMやMVを制作している。まさに、今、乗りに乗ってる感じだ。

スペインに生まれ、イギリスのCA芸術大学を卒業したジュエル監督は、その後世界を旅して多様性のある作品作りを身につけた。人気ディレクターとして数々の賞を獲得しているが、2013年に監督を手がけたノーティーボーイの「La La La」のMVは、再生回数が1兆回を超えている。そこから快進撃が始まったわけだが、本当にブレイクするまでには、まだちょっと時間がかかった。

ジュエル監督の作品には、シュールでユーモラスで、ときにかなりグロかったりする独特の雰囲気があるが、ほぼすべてにおいて強烈な風刺が効いている。2019年に制作されたMVとCMは10本ほどあり、どれも本当に面白くて絶対に見て欲しいのだけど、全部は紹介できないので、ジュエル監督のウェブサイトか、彼が所属するプロダクションAcdemyのサイトでじっくりご覧いただきたい。

トップの動画は、2019年10月に発表されたダイヤモンド生産社組合のCM。YouTubeをはじめとするデジタルメディアの他、アメリカ、中国、インドのテレビ、映画館、飛行機の中などでも大々的に放映された。ダイヤモンドが辿ってきた歴史、それをとりまく人間模様が古代から未来にかけて豪華に描かれている。
「これだけのスケールの仕事で話が書けるチャンスはとても稀少。自然現象の物語を描けるチャンスはさらに稀少」であり「CM界ではもう二度とできないであろう途方もない仕事。ものすごく特別なフィルムだ」とジュエル監督はクリエイティブ業界の情報サイトLittle Black Bookで語っている。

これは9月に発表されたApple WatchのCM。日本でも放映されたので、見た人も多いだろう。日本語版はこちら。街中のシーンはチェコのプラハで撮影された。チェコの英語情報サイトexpat_czの記事によると、場所が特定できないように、チェコ語の看板などは慎重に隠してあるという。また地下鉄の駅のわずか10秒のシーンは、プラハの地下鉄の駅で、終電後から始発までの4時間をかけてリハーサルし、翌日の夜にまた4時間かけて本番を撮影した。テイク数は20にもおよんだという。背景の人たちはすべてエキストラで、ひとりひとりの動きがきっちり計算されている。またこの中に、チェコでも人気の俳優で映画プロデュサー、ダン・ブラフォードがちょい役で顔を出している(「グッバイ・イエロー・ブリックロード」をリクエストしてる人)。

Beardyman ft Joe Rogan – 6am (Ready to Write)

さて、今度はジュエル監督の本領発揮とも言えるシュールなMVを紹介しよう。これも9月に公開されたマルチボーカリスト、ミュージシャン、コメディアンのバーディーマン(フィーチャリング、ジョー・ローガン)の「6am (Rady to Write)」のMV。ジュエル監督は2015年から、「ピノキオのように伸びる鼻をリアルに肉っぽく表現」した映像を作りたいと思い方々に売り込みをかけたのだが、なかなか受け入れられなかった。そのうち、コメディアン、ジョー・ローガンの、ドラッグ漬けで挙げ句に拳銃自殺をした伝説のアメリカ人ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンの1日のスケジュールというネタが監督のアイデアと結びついた。MV専門の情報サイトClipped.TVによると、「始めは母親にウソのメッセージを送ったことで鼻が伸びるが、それはコカインを求めて嗅ぎ回りながら鼻が伸びていくというハイブリットになった」と監督は話していた。

最後に出て来る「コークデビル」(コカイン悪魔)がめちゃくちゃ怖い。子どもに見せたら、コカインだけは絶対にやりたくないと思わせる、いい教育になるかも。

James Massiah – Natural Born Killers (Ride For Me)

これは詩人ジェームズ・メサイアのシングル「Natural Born Killers」のMV。地球温暖化で最期を迎える恋人たちや親子の姿を描いている。歌が始まると、メサイア自身が登場する。涼しい車の中から瀕死の女性にあれこれ、どうでもいいような細かい用事を言いつける(歌詞は、女に依存しきったヒモのモノローグになってる)。だが、これはラブソングなのだと彼は言う。共に最期の時を過ごす愛する人たちの傷心と悲哀を込めたのだそうだ。

音楽雑誌CRACKのインタビューで、メサイアは、ジュエル監督とは「実社会のことやメッセージのことなどは一切話さず、音楽のことだけを話した。そうしてイアンは感じとり、私がこの歌を作ったときの気持ちを理解した」とメサイアは話している。

ここで紹介した以外にも今年公開された作品に、「未来は人の手で作るもの」というコンセプトを伝えたフォードのCM、ネットの評価は信じるなと訴えるアリー銀行のCM、街の人たちが動物になって自然の呼び声に集まるミケロブのCM、女性や障害者のアスリートへの偏見に反抗するナイキのCM、高速データ通信なら何でもできると知った男が空も飛べると勘違いて……というVirgin MediaのCM(空は飛べなかったけど、それ以外なら納得価格でできたよと葬儀の司祭)、100の善行をしようと奨励する会社のプログラムで2人の同僚が張り合う保険会社ステートファームのCMがある。

そうそう、最後にこれも。ジュエル監督の原点とも言えるナオの「Bad Blood」のMVと、日本で撮影されたバレンティノ・カーンの「Deep Down Low」のMVもぜひぜひ見て欲しい。ジュエル監督の想像力が爆発している。

Nao – Bad Blood (Official Video)

Valentino Khan – Deep Down Low (Official Video)

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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