アメリカの大手新聞ニューヨーク・タイムズの購読キャンペーン「The truth is worth it」(真実にはそれだけの価値がある)のための動画。ここに紹介したのは、ドナルド・トランプ大統領が父親から財産を贈与された際に不正な税対策を行った事実を突き止めた同紙の記者デイビッド・バーストウ氏、スザンヌ・クレイグ氏、ラス・ブートナー氏による昨年10月の記事を題材にしたもの。彼らは18カ月にわたり、10万件もの公開資料を精査して疑惑を暴いていった。
このキャンペーンはニューヨーク・タイムズを購読してね、という宣伝でもあるのだけど、同時にブランドのキャンペーンでもある。この動画を制作したニューヨークのプロダクション、ドロガ5の紹介記事には、フェイクニュースがはびこり、報道機関を否定するような言動が飛び交う今、ニューヨーク・タイムズのジャーナリストの危険、勇気、忍耐力、決意に光を当てたものだと書かれている。
キャンペーン動画は、この他に次の7本がある。動画はすべてニューヨークタイムズのキャンペーンサイトで見られる。また、その元になった記事のリンクも掲載しておこう。
M.T.A.:ニューヨークの市地下鉄の組織的劣化を招いた政治的原因を追及。元記事
Climate:海水温の上昇によるガラパゴスの生態系の変化を克明に調査。元記事
Immigration:何百人もの不法移民の子どもたちが親から引き離され非人道的な扱いを受けている現状を調査。元記事
Pies:52のコンセプトから25種類のパイを焼き、そこから8種類の本当においしいパイを厳選。元記事
Rohingya Crisis:執拗な取材申し込みの末にミャンマー政府の指示に従うとの条件でビザを取り、軍のガイドを振り切ってロヒンギャのキャンプに潜入し、政府の嘘を暴露。元記事
Mexico Spyware:メキシコからの密告を受け、メキシコ政府がジャーナリストとその家族をスパイウェアで監視していることを命がけで暴露。元記事
ISIS:ISISの脱走者の話、イラクの元ISISの拠点92箇所、さらにISISが最後の砦としイラクの猛攻撃を受けている最中のモスルで収集したデータから、ISISが残忍性と官僚的機構と国家としての機能を持つ組織であったことを解明。元記事
パイの話は他の題材とは異質に見えるが、「どんな題材でも、ニューヨーク・タイムズは同じ厳格さと誠実さをもって真実を追究する」(ドロガ5)という姿勢を示すものだ。
この他、気候変動問題、移民問題、8種類のパイに関する話など8本のキャンペーン動画がある。パイの話は、見た目と同じぐらい美味しい8つのパイを紹介するというもので、他の題材とは異質に見えるが、「どんな題材でも、ニューヨーク・タイムズは同じ厳格さと誠実さをもって真実を追究する」(ドロガ5)という姿勢を示すものだ。
監督は、Google やナイキやホンダなど数多くの大手企業だけでなくスモールビジネスのキャンペーン動画などを手がける Toby Treyer-EvansとLaurie Howell のコンビ。このキャンペーン動画は、今年のカンヌライオンズのフィルム部門、クラフト部門のグランプリと5つのゴールドライオン賞を獲得した。また、D&AD では、動画広告部門で最高賞のブラックペンシル2本、広告脚本部門ではイエロー、グラファイト、ウッドの各鉛筆を合計12本獲得した。
報道映像を演出することには異論が多いが、この作品の場合は、「真実」に別の要素を加えて演出や装飾を加えているのではなく、品のいいデザインの上に成り立っている。画面を覗き窓として扱う動画の場合、画面を意識させない没入感を重視することがあるが、これは逆に画面を媒体として活かし、動くグラフィックデザインをきっちり行ってる感じ。こういう映像美も、どんどん発展して欲しいね。