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スパイク・ジョーンズ監督による
アメリカ初の大麻のテレビCM「ニューノーマル」

金井哲夫 Apr 15 2019

2015年に全米初の大麻小売店を開業し市場最大手企業となった「メドメン」が、大麻解禁や規制緩和の動きを祝福する初のテレビCMを制作。監督にはスパイク・ジョーンズ氏、ナレーションは「グレイズ・アナトミー」にも出演していた俳優のジェシー・ウィリアムズを起用。

dir
Spike Jonze
prod co
Mekanism
narration
Jesse Williams
m
Frank Dukes
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スパイク・ジョーンズ監督が、欧米で加速するカナビス(大麻)解禁や規制緩和の動きを祝福するショートムービーを制作した。これは、メドメン(MedMen)というカナビスを栽培し販売する企業のプロモーション。メドメンは、2015年、カリフォルニアに全米初のカナビス小売店を開業したカナビス市場の最大手だ。アメリカでは、一部の州のカナビス解禁に合わせて、数多くのカナビスを扱うスタートアップ企業が誕生し、ベンチャー投資家からどんどん資金が流れている。同社によれば、これはカナビスの「初のテレビCM」というわけ。まずは、ナレーションの対訳から。

ちょっと歴史を振り返ってみようか?
その昔、ジョージと開拓の父たちは大麻を育てていた。
そう、大統領自らが栽培してたんだ。
これが普通だった。
でも、アメリカの80年間にわたる不当な禁止法のためにに、それは普通ではなくなった。
とは言え、それで生活が安全になったわけじゃない。
やがて誰も彼もが、ところかまわず警察に呼び止められて所持品検査をされる政策が……
いや、ちょっと脱線した。
ともかく、その罰則がきつかった。
懲役25年とか。
狂ってる。
そう言えば、昔、こんな宣伝映画があった。
(カチンコには「麻薬中毒者の狂気」と書かれている)
狂気だって?
じゃあ、健康の効能は?
痛みやストレスや不安を和らげるために使ってる普通の善良な人々は、どうなのか?
人々を闇市場に走らせていたその製品は、今では新しいグローバル市場を築いてる。
たくさんの雇用も生んでいる。
そしてそれは、クリエイター、モノを作る人、社会に革新をもたらす人たちにインスピレーションを与えてる。
カウンターカルチャーのシンボルだったそれは、やっと、普通のカルチャーになった。
それは再び、普通になったんだ。
ニューノーマルに。

まず、タイトルになっている「ニューノーマル」とは、リーマンショックの後に、もうこれまでの「普通」は通用しなくなって、今の普通じゃない状態が普通になるという意味の言葉として、経済界で流行ったもの。それが、いろんな場所でも使われるようになった。このショートムービーでは、とっても皮肉な使われ方をしている。

「麻薬中毒患者の狂気」(Reefer Madness)は、1936年にアメリカ政府が制作した宣伝映画。今はパブリックドメインとして自由に観ることができるが、アメリカ史上最悪の映画として知られている。

「The New Normal」は、歴史博物館の展示という形で話が進む。最初はジョージ・ワシントンの大麻畑。そこから現代になり、ちょっと戻ってフラワームーブメントっぽい場所になり、その当時の白人の中流家庭の情景から、最後にハッピーな近未来になる。買い物帰りのカップルが手に持っているのは、メドメンの赤い紙袋……。

ナレーションは、「グレイズ・アナトミー」にも出演していた俳優のジェシー・ウィリアムズ。彼のインタビューが MedMen のウェブページに掲載されている。元歴史の教師であり、アフリカ系のウィリアムズは、アメリカとカナビス、そしてそれに関連する有色人種の歴史に詳しい。彼はこう話す。「中流の白人家庭では、すでにノーマルだった。アニマルハウスなどの映画では決まってジョークのネタになっていた。白人の親は、子どもたちが吸ったり売り買いしていることを知っていたが、内密に許されていた。だけど黒人や有色人種がやれば一生牢屋にぶち込まれるか、路上で撃ち殺される。そしてそれは大麻が悪いと正当化される」

ウィリアムズが「天才」と呼ぶスパイク・ジョーンズとのコラボによるこのCMはカルチャーにインパクトを与えるものであり、「責任感を持って真剣に取り組み、歴史の授業を通してそれを取り巻く神話を引き剥がす」のだと彼は言う。

まさに、最高に身にしみる歴史の授業だ。現実もハッピーエンドになりますよう。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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