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七尾旅人「DAVID BOWIE ON THE MOON」のMVは
レトロでメローな4Dグラフィックデザイン

金井哲夫 金井哲夫 Feb 28 2019

七尾旅人が子どものころから敬愛していたデイヴィッド・ボウイに捧げる歌として作られた「DAVID BOWIE ON THE MOON」。MVは視覚ディレクター河野未彩監督によって、動く絵画のような、どこかノスタルジックな作品へと仕上がった。

dir
Midori Kawano
photography
TOKI
m
Tavito Nanao
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昨年の12月にリリースされた七尾旅人のアルバム「Stray Dogs」に収録されている「DAVID BOWIE ON THE MOON」。七尾旅人が子どものころから敬愛していたデイヴィッド・ボウイに捧げる歌だ。そのMVを、視覚ディレクター河野未彩監督が動く絵画のような作品に仕上げた。きらびやかながら、どことなく懐かしくレトロな雰囲気を静かに感じさせてくれる。

七尾旅人とのコラボを長年夢見ていた河野監督が、最初に受けた依頼は「2D」で、ということだった。しかし、実際に本人と顔を合わせた瞬間、「みるみる4Dになって」イメージが湧いてきたと監督は話している。それを「宇宙にいってしまった居ない誰かに思いを馳せるエモさ」と河野監督は表現している。そのイメージが、「火、水、風、光、鏡、回転周囲などでできた小宇宙を記録する」というアイデアに発展した。

撮影は一発撮りで行われているが、撮影当日までは「氷を溶かして蒸発させるのによい火力のアルコールランプを探したり、溶けた氷が溢れる皿の深さを調整したり、イメージにあったプロップや機材、カメラマンTOKIとのテスト撮影など、実験を繰り返しました」と河野監督は振り返っている。また、使おうと思って海外に注文していたドクロの製氷皿が届かず、代わりに丸い氷を使ったところ、「月のようにみえてよかった」という偶然の要素もあったそうだ。

撮影当日、時間をかけてセッティングしていたとき、(新しい自分を)「見つけちゃった」と言いながらメイク室から出て来た七尾旅人を見て一気に世界観が完成し、「テイクを重ねるごとに不思議なグルーヴが増し、現場は大変盛り上がりました!」という。

七尾旅人からも、熱いコメントが届いている。ちょっと長いけど、そのまま掲載しよう。

「DAVID BOWIE ON THE MOON」成層圏を抜け出したボウイを描くこの曲は壮大なので、インディーで予算も限られる中、どうやって映像化すべきかまったくわからなかったのですが、天才・河野未彩が互いに連関しながら回転するオブジェクトをワンフレームで捉えての一発撮りという、アナログかつ斬新な手法で乗り越え、暗示に満ちたコンパクトな銀河系を表出してくれました。
カツオの一本釣りの如き、いさぎよさ。演劇のようにすべてが一発撮りなのです。
鏡が眼の前に回ってくるタイミングもランダムなため、どの歌詞を歌っているときに自分が映り込むかはわからず、テイクごとにまったく違った印象のビデオになりました。
原曲通りに10分くらいあるバージョンも撮影しましたが、総合的に出来栄えを判断して、星々の自転と公転のタイミングに神がかり的なものを感じたMVエディットバージョンを公開することになりました(フルバージョンはアルバムでお楽しみください)。

未彩さんは僕ら世代のグラフィックデザインを切り拓いてきた人で、Rollin’のころに知り合って以来、ばったり会うたびにすごく感じの良い方だなと思っていて、ずっと一緒に仕事してみたかったんだけど、ある日「俺の曲ってぜんぜん洒脱な感じじゃないし、俺って田舎者だし、もしそのうち合いそうな曲が出来たらぜひともお願いしたいんですが」って言ったら、「本気でそう思ってます?」って言われて(笑)。
それで「みどりちゃんに俺の本気を見せないと……」みたいな謎のテンションになり、勇気を出してオファーしました。
10年越しくらいの念願かなってのコラボレーションで、とても嬉しかったです。

お互いにいっしょに仕事をしたいと思い続けて約10年。このMVには2人の思いがぎゅっと詰まっているわけだ。

固定された画面に慎重にレイアウトされた小物や、七尾旅人の姿を写す鏡やスクリーンの映像が控えめに動く。まさに、多くのミュージシャンのアルバムジャケットを手がける河野監督の「4D」のグラフィックデザインだ。ストーリーを追う必要がないので、静かな庭を眺めながら心地よい音楽を聴いている感じだ。というか、まさにそれ。七尾旅人の歌詞がストレートに入ってくるところがいい。

「旅人さんの音楽と有機的な美しさに支えられて完成したこのMV、見るたびに発見があるような仕掛けになっています」と河野監督は話している。何度見ても飽きるどころか、ますます見入ってしまう。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。