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ベニー・ブランコの明るく陽気な「I Found You」に
移民の親子が重大な意味をもたらした

金井哲夫 金井哲夫 Jan 28 2019

ある事件がきっかけで移民になってしまったホンジュラス出身のニルダ親子。彼女のような人々に救いの手を差しのべるべくして作られた「I Found You / Nilda's Story」のMVは、ベニー・ブランコのオリジナルと歌詞の意味は変わらないものの、よりメッセージ性の高い作品へと仕上がった。

dir
Jake Schreier
Executive Pro
ackie Kelman Bisbee, Alex Fisch
Color
Mikey Rossiter(The Mill)
m
benny blanco, Calvin Harris & Miguel
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まずは、字幕で語られている内容をまとめて解説しよう。

ホンジュラスに生まれたニルダは、裕福ではないが、家族に囲まれ、学校に通い、親友がいて、好きなバンドをテレビで観て、普通の少女時代を過ごしていた。
15歳のとき、親戚の男にレイプされかけたことから親友と夜遊びを始めた。やがて妊娠がわかった。父親は最初は喜んだが、その後暴力を振るうようになり、ニルダは歯の手術を受けるまでに叩かれ続けた。
ニルダは男の子を産み、ケイデンと名付けた。
2人は近くのショッピングモールに行き、お金がないためにウィンドウショッピングを楽しんだ。ケイデンは馬の遊具に乗るのが好きだった。
数年前から街でギャングが幅を効かせるようになり、ニルダの目の前で近所の人が殺されたりした。ある日、警察に追われた二人組のギャングがニルダの家に逃げ込み、ニルダとケイデンを人質にして立てこもった。
やがてギャングは逃走したが、そのとき、この家を出ないとニルダとケイデンを殺すと脅された。
2人は家を出て、グアテマラを経由してメキシコに渡った。そこでガイドと別れ、ニルダはケイデンをスエットシャツに包んで腰に巻きつけ、貨物列車の吹きさらしの場所に乗り、アメリカの国境まで来た。
国境の川に架かる鉄橋を歩いて渡ったところで国境警備隊に逮捕された。1時間、地面に放置され、その間、ケイデンに食事を与えることも許されなかった。
警察署に移された2人は、寒い部屋で一晩を過ごした後、引き離された。ニルダは泣き叫んで息子を返して欲しいと懇願したが、聞き入れられなかった。
「オレの国に来ると、こうなるんだ」と警官に言われた。
ニルダは、1週間、拘置所に入れられた。ケイデンがどこにいるか、誰も教えてくれなかった。
それから各地の施設を転々とし、1カ月間、ケイデンに会えないままニューヨークの移民税関捜査局の事務所に連れて行かれたが、そこで息子に会えると伝えられた。だがその場所は、北部のゴーシェンという街だという。
2週間後、ニルダはゴーシェンの移民税関捜査局の施設に連れて行かれ、そこでようやくケイデンと再会する。
ケイデンは、ニルダがトイレ行く間ですら、離れることをひどく怖がるようになっていた。
ニルダの足首にはモニターが取り付けられている。定住場所が見つかるまで、モニターを外すことができない。

背景に流れている曲は、音楽プロデューサーのベニー・ブランコと、その友人でスコットランドのDJ、カルバン・ハリスとがコラボして昨年の11月にリリースした「I Found You」というシングル曲を、このショートムービーのために「チャリティーバージョン」に編曲し、R&B シンガーのミゲルが歌っているもの。

歌詞は「どう動いていいかわからないと不安。何を信じていいかわからないときは、キミを信じる。いろいろ旅してやっとわかった。もう大丈夫。なんでもできる。だって、キミを見つけたから……」という内容。ブランコのMVで聴くと、とてもハッピーで陽気な曲なんだけど、ミゲルが歌う「I Found You / Nilda’s Story」はアコースティック版で、歌詞の意味は変わらないものの、胸に迫るものがある。

監督は、オリジナルの「I Found You」の MV を監督したジェイク・シュライアー。数多くの MV や CM を手がけているが、最初に監督した長編コメディー映画「素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー」(2012年)でも高評価を受けている。現在は、ミシェル・ゴンドリー監督、ジム・キャリー主演のアメリカのテレビドラマ「Spark of Greatness」にも関わっている。

ベニー・ブランコは、ニルダの話を聞き、「自分のシングル用に作ったこの曲が、自分で思っていたよりもずっとパワフルで、ものすごく大切だと感じて、別のショートフィルムを制作することにした」とインスタグラムに書いている。

カルバン・ハリス、ミゲル、そしてブランコは、難民や移民の法的支援や教育を行う非営利団体や人権協会と協力して「While They Wait」(彼らが待っている間に)財団を立ち上げ、ニルダとケイデンばかりでなく、同様に苦しんでいる人たちを助けて欲しいと訴えている。


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金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。