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鬼才ジェイコブ・コリアー「With The Love in My Heart」の
心象風景を映像化、田向潤監督に聞く

金井哲夫 金井哲夫 Dec 27 2018

ジェイコブ・コリアーがデビューシングルで表現したのは“愛を求める孤独な若者の心象風景”。それを映像化したのは、監督をつとめた田向潤をはじめとする日本の映像チームだ。NEWREELでは田向氏のインタビューとともに紹介する。

dir
Jun Tamukai
pr
Bruce Ikeda
cd
Nobumichi Asai
content writer
Jun Nishida
m
Jacob Collier
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ジェイコブ・コリアーのデビュー・シングル「With The Love in My Heart」の MV が11月に公開された。コリアーは、音楽一家で育ち、さまざまな音楽や楽器に触れてきた。現在23歳という若さながら、音楽ジャンルを超えた独特の表現力を発揮している。驚くべきは、すべての楽器を一人で演奏しているということ。そもそもデビューのきっかけとなったのは、多重録音によるスティービー・ワンダーの「Don’t You Worry ‘Bout A Thing」やバート・バカラックの「Close To You」(下の動画)を YouTube で流したことだ。これが世界中で評判になった。

「With The Love in My Heart」の歌詞は、「空を飛ぶ翼もない、歌う歌もない、握る手もない、方向を示す星もない……でも愛がある、キミがいる」と始まる。そんな、愛を求める孤独な若者の心象風景を映像化したのが、日本の映像チームだ。

クリエイティブディレクターの浅井宣通氏、JKD Collective のプロデューサー Bruce Ikeda 氏、Drill-inc のコンテンツプランナー西田淳氏が企画を作り、その演出プランと撮影を田向潤監督が行った。

NEWREEL では、田向潤監督に撮影の方法など、話を聞くことができたのでお伝えしよう。

田向監督は、Twitter で上のように書いている。この曲を聞いたときに「彼の頭の中には膨大なアイデアが詰め込まれていて、それが音楽という形で溢れ出ているような印象を受けた」そうだ。「そんな、止めることのできない彼の情熱が次々と押し寄せるようなイメージ」の演出だという。

元になる大まかなビジュアルイメージは、浅井宣通氏、Bruce Ikeda 氏、西田淳氏が考え、それを映像化して欲しいと田向監督が依頼を受けた。曲想がころころ変化する歌をひとつの映像にまとめるのは、多くの MV を手がけてきた田向監督でも難しかったのではないだろうか。「複数の楽曲が混在するような構成に驚いた」と監督は話している。

しかし、音楽的に複雑でも、曲の本質は別のところにあると田向監督は感じた。ジェイコブ・コリアー自身からも、「愛を求める旅」を描いて欲しいとのオーダーがあった。そこで、曲に合せて設けたいくつかのシーンが、ひとつの物語を構成しているように見せることに注力したという。CG で描かれているのは「森を抽象化した世界」であり、白い鳥は「ジェイコブ自身が追い求める愛」を表現している。

コリアーがさまざまな楽器を演奏するシーンには、鏡を使った効果が多く使われている。そこでは、コリアーのマルチな才能やテクニックを前面に押し出すよりも、「違う楽器のテイクを鏡ごしに変化させたりして、世界観の構成に役立てるように演出しています」とのこと。

3分17秒あたりに登場する「プリズムキューブ」の中に入ったコリアーが、合せ鏡の中で無限に増えてゆくシーンでは、最初は全面鏡の箱を作り、その中でコリアーに演奏してもらうことを考えていた。ハーフミラーごしに撮影する予定だったのだが、ミニチュアでテストしてみるとうまくいかない。そのため、プリビズであれこれシミュレーションをしたそうだ。

その結果、生み出された方法が「演奏するジェイコブを前と後ろから挟む形で2台のカメラで同時に撮影し、CG 空間にその素材を交互に並べることで鏡に囲まれた空間を再現」するというものだった。「これにより、実写ではできないダイナミックなカメラワークも可能になりました」と田向監督。

ジェイコブ・コリアーの印象を監督に聞くと、「音楽というオモチャに永遠に飽きない子どものような印象でした。長時間の撮影にもまったく疲れを見せず、空き時間も常に楽器で遊んでいました」とのこと。溢れ出るほどの才能とは、そういうものなのだろう。まったく驚かされる。

あれだけのシーンを「長時間」かけて撮影したというのだが、いったい何日かかったのかを聞いてみると、「1日です」というから、これまた驚きだ。


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金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。