去年の11月にリリースされたKOJOEのアルバム「Here」の収録曲「Day n Night」と、ディレクター北田一真(TOKYO)のコラボによるショートフィルムが公開された。無数の決断の積み重ねである自分の人生での後悔や罪の意識に押しつぶされそうになり、もしあのとき、と別の決断をしていたいろいろな今の自分を想像し悩み苦しむ様子をどう映像化するか。そこに登場したのがドローンだった。
KOJOE とは以前から知り合いだった知り合いだった北田監督と、いろいろな自分が同時に存在するDay n Nightの世界を、正確に同じコースを何度も飛行できる自律型ドローンを使って撮影しようと考えた。狭い空間での移動、長い距離の移動。360度回転などのカメラワークを可能にするのは、ドローンしかなかった。そうして、この世界初のシステムが生まれたというわけだ。
Maya で制作された 3D のプレビズからカメラアニメーションの座標データを読み込み、ドローンの飛行ルートを設定するというのが基本的な仕組み。スタジオに張り巡らせたモーションキャプチャーシステム OptiTrack で、ドローンの位置をフレームごとに認識し、プレビズの座標に同期させる。ライティングや音もきっちりシンクロさせることで、ドローンが何回飛行しても、つねにまったく同じシチュエーションが撮影できるという。このシステムは、プロトタイピング・ラボラトリー amana Figlab、ポストプロダクション +Ring、OptiTrack のメーカー Spice との共同で開発された。
上のメイキング動画で北田監督も話しているが、ドローンを使うことで、モーションコントロールカメラではできなかった360旋回撮影が可能になり、奥行きのある多重合成が実現した。これによって表現の幅が大きく広がるというから今後の応用が楽しみだ。
KOJOE は子どものころから転校を繰り返し、17歳で渡米、帰国後は大工として年下の人間にこき使われていたこともあるという叩き上げのラッパーだ。Day n Night は、そんな KOJOE ならではの奥深さと温かみがある。洗面台の鏡のあっちとこっちに、息子と髭を剃る幸せな自分と孤独に頭を抱える自分がいる場面にはグッとくる。そうしたメンタルな情景を、最新技術と北田監督たちのアイデアと努力が見事に映像化した。
KOJOEの歌がなければこの技術は生まれていなかったし、この技術がなければKOJOEの内面の世界は十分に視覚化されなかった。そう思うと、これは超一級のショートフィルムだと言える。
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