イギリスのエレクトロニカ系ミュージシャン、エイフェクス・ツインの、9月14日に発売が予定されているEP「COLLAPSE EP」から、「T69 collapse」の MV が先行公開された。
これでもかっ! というぐらい画像処理技術をぶつけてきたこの映像は、エイフェックス・ツインのほか、M.I.A や日本のヤングジュブナイルユースともコラボしているビジュアルアーティストのウィアードコア(Wiredcore)によるもの。YouTube のオフィシャル動画には「警告:連続的な点滅に注意」と書かれている。あの「ポケモンショック」で知られるようになった光過敏性発作に注意ってこと。
Fast Company 誌でのウィアードコアのインタビューによると、ひとつの建物などを異なった角度から複数の写真を撮影(スキャン)し、それを3Dモデルに変換するフォトグラメトリー技術を使っている。イングランド南西部コーンウオールの街の風景をフォトグラメトリーで3D化して、その上にAfter Effectでテキストを合成した。また、フォグラメトリーと同じ処理を動画で行うビデオグラメトリーも多用している。ウィアードコアは、これを「3Dスキャン・コラージュだ」と言っている。
また、1分ごろからの街がトンネルのようになって、その中を進んでゆく場面は、Transfusion.AI というソフトの、機械学習による映像合成「画風変換」技術を使っている。さらに、エイフェックス・ツインの3Dスキャンした顔などが曲に合わせて変化するところでは、MIDI(デジタル楽器用の演奏データ)ファイルやテンポ情報などを使って音楽と映像を同期させている。
ウィアードコアは、イギリスの名門リーズ大学でメディア・コミュニケーションを学んだあと、90年代中、ロンドンの伝説のクラブ「オービット」に住み込み、この仕事を目指すようになった。
Dazed 誌に掲載された2017年のインタビューによると、ウィアードコアは、2000年代中ごろまで、違法スレスレに近い「暗い地下室でダーティーなもの」をやっていたという。彼が多く出演していたのは大きなクラブの他、スクワットパーティーと呼ばれる、廃ビルなどを不法占拠してゲリラ的に開かれるパーティーだった。「スクワットパーティーでなんとかライブを成功させれば、どこでも成功できる」と彼は話している。
そのころ彼は、「テレビがどのようにして人の考えを操っているか」に気がついたという。「自分たちは常に監視されている」という感覚を伝えたくて、「ペンタゴンのコンロールルームのような」たくさんの画面を並べるスタイルを考え出したそうだ。映像をひとつ大きな画面に映し出すのも、面白くないと彼は考えていた。
エイフェックス・ツインとは2009年からコラボを続けているが、彼が作るMVは、実際のライブショーをひとつの画面に凝縮したのだと思うと、あの激しく濃厚な変化の意味がよくわかる。ウィアードコアのウェブサイト も、まさにアンダーグラウンドなパーティー会場のように画面全体が強烈の「パカパカ」しているので、こちらも見るときは光過敏性発作に注意が必要だ。
【2018.8.14 17:00追記 / 22:23修正】
ところで、このMVの最初の30秒ほど、ぱらぱらと出てくるテキストだけど、そこにエイフェックス・ツインとウィアードコアのメールのやりとりが入っていると、エイフェックス・ツインのファンがrdditで運営するsubredditに書かれていた。その内容はこんな感じ。最初がエイフェックス・ツイン(リチャード、以下A)で、次がウィアードコア(以下W)の順番。
A「どんな場所を入れたらロンドンっぽいかな?」
(ここでリチャードはいくつかスキャンしたい場所を見せてるみたい、と注釈に書かれている)W「エレファント&キャッスルの銀色の箱に決まりだね。動画のフォーカルポイントになるよ。2001のモノ(「2001年宇宙の旅」のモノリス)とコーンウオールのやつをコラージュみたいな」
……A「政治的にちょっと傾けてみようよ。メディアがどやって人の思考を操ってるかとか」
W「最近のシミュレーション説に聞き慣れちゃうと、有名な科学者連中が、オレたちはシミュレーションの中に住んでる確率が高いって言ってたことに、気づかなかったよね」
A「シミュレーションの中のシミュレーションの中のシミュレーション。神はただのAI」
W「それは認めたくないが、もっともらしいとは思えるね」
A「britain’s got talent(オーディション番組)なんてクソみたいなテレビ番組を見てる普通の人たちは、ここがシミュレーションじゃないっていう証拠になるね。そんなものシミュレーションする必要ないじゃん。それとも、オレたちは失敗したシミュレーションの中に住んでるって証拠なのかな」
こんな話が続いている。彼らはやっぱり陰謀説が好きらしい。じっくり読みたい方は、こちらをどうぞ。
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