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無表情で静かなドタバタコメディーにこだわるアーロン・ベッカム監督
最新作の「Born Forlorn」は静かに爆笑

金井哲夫 金井哲夫 Jul 10 2018

アーロン・ベッカムの最新ショートムービー「Born Forlorn」は、かなりおバカな2人が淡々とすっとぼけた行動をかましていく脱力系コメディ。どうか頭を空っぽにして観てほしい。

dir,writer
Aaron Beckum
pr
Molly Ortiz
starring
Aaron Bechum, Michael Wilson
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コメディーは近ごろ珍しい。登場する2人が馬鹿過ぎて笑いが止まらない。タイトルの「Born Forlorn」とは、孤独に生まれついたという意味。Forlorn には、見込みがない、絶望的というという意味もあるので、「生まれつきお馬鹿」とも読み取れる。

まずはストーリーを解説しよう。アメリカの田舎町に住むディオンが、車を修理しながら別れたガールフレンドの留守電にメッセージを残している。安く車を直してくれるところを知らないかと思って……。そして別れた後の悲惨な状況の愚痴をだらだら。話ながら彼は重要な部品をエンジンルームから取り外して捨ててしまう。お手上げになってボンネットを閉じると、「コンピューターを持ってる友人」が現れ、「メールが来てるよ」と教えてくれる。

パソコンに表示されたのは、怪しげなカントリー&ウエスタンのオーディションの告知。低予算のインターネット CM で、報酬は80ドル。電話では受け付けず、今日の5時までに動画リンクで申し込むこと、とある。

「動画リンクってできるの?」とディオンが聞くと、友人は「これで撮ってリンクする」とビデオカメラを取り出す。どうも、この友人もお馬鹿っぽい。部屋の中で撮影しようとするが、「もっとドラマティックな舞台がいい」とガレージの屋根に移動する。そしてお約束の展開。

部屋に戻りビデオカメラを机の上にセットして撮影開始。ビデオカメラのモニターに映った微妙なアングルが笑える。

ディオンはこう歌う。「いつか携帯をトイレに流してやる。海の底に沈んじゃうんだ。キミはメッセージを出せばいい。絶対に読めないし。キミはボクを粉々にした。ボクは孤独に生まれついた。望みの井戸は空っぽ」……あんなに格好をつけて歌うような内容ではない。

撮影が終わり「よし、今日中にダウンロードしよう」と友人が言うと、机がひっくり返りパソコンが壊れる。ディオンはビデオテープを取り出し、「自分で届ける」と言い出す。「でもLAまで500キロ近くあるぞ」と友人。

車に乗ったディオンに友人が、「近道をしろ。砂漠を時速100キロで突っ切るんだ」と危険極まりない助言。男は車を走らせる(動いたのかっ!)。

案の定、車は壊れてしまう。夜の砂漠をさまよう彼の周囲で、点々と生えているジョシュアツリー(ユッカ)が「ジョシュア、ジョシュア……」と囁いている。それを聞いたディオンは、特別に驚くことなく、こう呟く。「ビッグ・ディッパーだ。ホントだね、ジョシュア。ボクはよく月のことをビッグ・ディッパー(北斗七星)って呼んでた。ちょっと傾けるとディップを入れるボウルになる。お空のチップス用の……」

そして、大切なビデオテープを残して歩いて行ってしまう。

監督はロサンゼルスで活躍する作家で映画監督のアーロン・ベッカム。その作風は、彼のサイトによると「愛のある北欧風の無表情なユーモアと1970年代のアメリカ風ドタバタの融合」だという。まさに、この作品も静かなドタバタ・コメディーだ。

ベッカム監督は、編集、プロデュース、脚本、監督の経歴があり、ロサンゼルスの映像プロダクション、ディレクターズ・ビューローに所属していた時期は CM や MV の制作も行っていた。彼のサイトで、それらの作品が見られるが、サムネイルだけでも笑えてしまう。

現在はプロダクション Strike Anywhere に所属し、「スタンドアローン」なコメディーを追求するという。こんなに面白い監督を知らなかったなんて、もったいない時間を過ごしたものだ。ぜひとも注目したい。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。