サニーデイ・サービスが3月に発売したアルバム「the City」に収録されている「卒業」のMVが公開された。映像監督の松本壮史と、劇団ロロを主宰する劇作家、演出家の三浦直之が共同監督したこの作品からは、永遠に終わらない楽しい学校からの帰り道のような、夕方のちょっと寂しいような、そんな淡い雰囲気が伝わってくる。
夕方の空を写す、初夏の田んぼを背景に、高校生たちがじゃれ合いながら帰ってゆく。よく見ると、6人の高校生が何度も何度も出て来る。服装やシチュエーションを見ると、彼らの季節は巡っている。だが、それは不思議さを強調した演出には感じられず、ごく自然に、和やかな映像として心に入ってくる。
この映像がどのようにして生まれたのか、松本監督と三浦監督にNEWREELが聞いてみた。
──なぜ、ずっと夕方の田んぼなのですか?
松本 「固定カメラで撮れる1シチュエーションの表現」から企画を考えていきました。下校シーンに絞って時間の流れを見せたかったのでロケーションの良さ重視で田んぼを選びました。役者の演技力と伊賀さんの衣装と演劇的な想像力とで季節は表現できると思いました。
三浦 曽我部さんの方から「学園モノで」とのオーダーがあったので、繰り返す下校風景のなかで変わりゆくものと変わらないものを描けたら面白いかなと。それと、僕が映像に関しては素人なので、固定カメラ長回しなら演劇のノウハウを使えるかなと思ったというのもあります。
田んぼは、ほんとは四季おりおりでの変化も込みでみせれたらさらによかったとは思ってるんですが、そこは時間の都合です(笑)。
ロケーションの候補は、もう少し季節感の出ない場所の可能性もあったのですが、頭にうかぶ「あぜ道の下校風景」のイメージを優先しました。たぶん、その直前に読んだ青春小説の田舎描写が頭に残ってたんだと思います。
──合成なしのワンカットの収録かと思われますが、現場はどんな雰囲気でしたか?
松本 ワンカット撮影となります。役者達がカメラの下をかがんで行き来して、早着替えをしています。ロロという劇団のメンバー6名が総出演しているので、チームワークが良く、細かいタイミングや芝居などの調整もスムーズでした。今回は前日にみっちりリハーサルをしてから本番に臨みました。
三浦さんとMVを作るのは2作目なのですが、前作の「ライトブルー」 という作品でもワンカットで時間を描いてるので、今回はワンカットは避けたかったのですが、企画を考えてく上でワンカットになってしまいました。
三浦 出演者がいつも一緒に演劇をつくっているロロメンバーなので、段取りの理解やイメージの共有の早さなどとても助けてもらいました。
フレームアウトしたら、カメラの下をしゃがんで抜けて、早替えして……と、かなり大変だったとは思うのですが、俳優含めそのほかのスタッフも力を注いでくれ形にすることができました。
──今後、やってみたい映像表現ってありますか?
松本 マッチングアプリとコラボして誰かのMVを撮りたいです。
三浦 僕は映像は門外漢なので、とくにやりたい映像表現みたいなものはないですが、演劇と映像の境界が曖昧になっていくようなものは興味があります。
YouTubeの解説には、登場人物の詳しい人物紹介が載っている。彼らが通っている高校の名前は曽我部高校。MVの途中でギターを抱えて登場するサニーデイ・サービスのボーカル曽我部恵一の「曽我部」だ。わざわざ部活のユニホームまで作っている。映像では小さすぎて見えないのだけど、ここまで凝るとは恐れ入った。それだけこの歌に思いを込めて、楽しんでMVを制作したのだなと納得できる。
三浦監督が言うように、演劇と映像が混ざり合っていく様子を、これから楽しみに見てゆきたい。
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