「ファーザー・ジョン・ミスティー」ことジョシュ・ティルマンの新しいアルバム「God’s Favorite Customer」に収められている「Mr.Tillman」の MV は、動くジオラマ的な可愛らしい映像なんだけど、内容はグロい。
何度も同じホテルにチェックインするミスター・ティルマン。映画の撮影セットのようであり、現実のようであり。歌詞は支配人らしきおじさんの言葉でほぼ構成されている。「ティルマンさん、いらっしゃい。チェックインの前に未納分のお部屋代をお支払いください。ミニ冷蔵庫にパスポートをお忘れですが、受け付けの者は写真があなたと違うと言ってます。バルコニーでお休みの場合はマットレスが雨に濡れないようにしてください。お友だちはご満足いただけましたか? 顔に素敵な入れ墨がありましたね。誰か呼びましょうか、お一人で飲むのは寂しいでしょう……」と嫌味たっぷりでお節介。そして「7回目ですが映画の撮影のことは知りません。彼らはエキストラではなくうちのお客様です」と、映画の世界と「現実」が入り乱れる「メタ」な感じになっていく。ミスター・ティルマンは、どんなにあがいても、このホテルから絶対に逃げられない。宿帳には、チェックインしたときの自分のサインがいくつも並んでいる。
監督はジェフ・デソムとカルロス・ロペス・エストラーダの2人。ルクセンブルグ出身のジェフ・デソムは、ロサンゼルスで活躍する映像作家。映像を使ったインスターレションを博物館などに展示するアート活動も行っている。デソム監督の作品には共通して古い映画のような雰囲気があるものの、デジタル技術もおおいに採り入れている。VFX も手がけたデソム監督自身がアップしたメイキング動画を見ると、「Mr.Tillman」はかなりの部分がデジタル合成されていることがわかる。
デソム監督が公開した「Mr.Tillman」のメイキング動画
デソム監督のその他の作品を見ても、ピアニスト、フォルカー・ベルテルマンの「Morgenrot」のためのMVのように、映画そのものをモチーフにしたり、映画の空気感を大切にした作品が目立つ。それがこの「Mr.Tillman」の映画の撮影とも現実ともつかない世界観を作っているようだ。
カルロス・ロペス・エストラーダはメキシコ生まれの映像作家。ガレージで制作したという、メキシコのポップデュオ、ジェシー・アンド・ジョイの曲「Me Voy」のMV で、史上最年少のラテン・アカデミー「ベスト・ショート・フォーム・ミュージック・ビデオ部門」賞を受賞している。また「Variety」の2018年に注目すべき監督10名の中にも選ばれている。
さらにエストラーダ監督は、演劇、道化、パントマイム、ライブ音楽、パペット、ビデオ映像を組み合わせたマルチメディア・ショー「DED!」の制作、監督も行っている。まさに注目すべき才能だ。
この個性的な2人がどうやって一緒に監督をしたのか、その現場の情報は少ないが、2人の監督が所属するプロダクション「Little Ugly」の Facebook ページに、撮影中の写真がちょこっと載っている。なんだか、仲良くやってそうだ。
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