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チャイルディッシュ・ガンビーノの衝撃作
「This is America」でアメリカ中が大騒ぎしている

金井哲夫 金井哲夫 May 11 2018

ここ数日、チャイルディッシュ・ガンビーノの新曲「This is America」の MV が話題となっている。本作はアメリカの人種差別と暴力のことを言っているのは漠然とわかるが、どうももっと深い意味がありそうだ。NEWREELではオンライン・ニュース・チャンネル AJ+「チャイルディッシュ・ガンビーノが言おうとしている4つのこと」と題された動画を解説。

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Hiro Murai
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Childish Gambino, BlocBoy JB, Quavo, Slim Jxmmi, Young Thug, 21 Savage
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Sherrie Silver
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Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)というステージ名でも知られる、俳優で作家で歌手の Donald Glover(ドナルド・グローヴァー)が5月5日に放った新曲「This is America」の MV が、アメリカで話題になっている。というか、大騒ぎになっている。YouTube での再生回数は5月12日現在で8019万回に到達するほどの勢いだ。

「これがアメリカだ」というタイトルが出た後、ギターを演奏する男性の脇を通り踊り出すガンビーノ。合唱隊がゴスペルのように「あっちへ行け」と歌い続ける。すると、ギターを弾いていた男性は頭に袋を被せられ、その背後からガンビーノが頭を銃で撃ち抜く。その瞬間に曲想が変わり、「これがアメリカだ」とガンビーノが歌い出す。これには度肝を抜かれる。「捕まるなよ。オレみたいにうまくやれ」と歌は続く。

監督は、東京生まれで LA で活動するフィルムメーカーのヒロ・ムライ。チャイルディッシュ・ガンビーノとは、2013年に「3005」の MV でも一緒に仕事をしている。観覧車に乗って歌うガンビーノの隣で、なぜか縫いぐるみのクマがどんどん朽ちてゆくという、不気味で幻想的な映像だ。

「This is America」でも、殺戮とダンス(娯楽)が混在するという不気味な世界を描いている。これが何を意味するのか。アメリカの人種差別と暴力のことを言っているのは漠然とわかるが、どうももっと深い意味がありそうだ。誰もがそう感じるようで、アメリカのみならず、世界中のメディアがさまざまな切り口で掘り下げた意見を発表している。

なかでも簡単でわかりやすいのが、アル・ジャーラが運営するオンライン・ニュース・チャンネル AJ+ のプロデューサー、マシャール・ミアが制作した「チャイルディッシュ・ガンビーノが言おうとしている4つのこと」と題された動画だ。これを見れば、「This is America」を理解するためのアメリカの人種問題の基本知識がわかる。内容をざっくり解説しよう。

その1:座っている男性を銃で撃つときのガンビーノのポーズは「ジム・クロウ」を模している。
ジム・クロウとは、1828年にアメリカで流行った「ジャンプ・ジム・クロウ」という歌に登場する人物。白人が顔を黒く塗って黒人を演じ、歌や踊りや寸劇を披露する「ミンストレルショー」というショーに使われた歌だ。そこから、ジム・クロウはアメリカの黒人を侮蔑する言葉となり、1800年代後半にアメリカ南部の各州で制定された人種隔離のための差別的な法律のことを「ジム・クロウ法」と総称するようになった。そんなわけで、「ジム・クロウ」には、アメリカ人にとって深い深い意味がある。

その2:アメリカ人は黒人よりも銃が好き。
男を撃った後の銃は赤い布で丁重に扱われているが、撃たれた黒人男性はずるずると引きずられてゆく。

その2の続き:教会の合唱隊を皆殺しにするシーンは、チャールストンの教会の銃乱射事件を表している。
2015年にサウスカロライナ州チャールストンにあるエマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会で起きた銃乱射事件では、21歳の白人男性が9人の黒人の男女を殺害した。

その3:娯楽産業がアメリカで日々繰り返される現実の問題から人々の目をそらせている。その一方で、ダンスは現実逃避のための行動である。
ガンビーノと子どもたちが楽しくダンスしている背後では、暴力が繰り広げられている。

その4:アメリカは黒人文化は好きだが黒人は嫌い。
ガンビーノのファンたちは、ダンスと暴力が隣合って存在しているのは、アメリカの黒人が置かれている壊れやすい空間を表しているからだと言っているそうだ。また、動画には社会学者キャサリン・S・ニューマン(アメリカにおける貧困とワーキング・プア研究の第一人者)のコメントも示されている。「私には、白人が、その優位性によって堅持されている不平等を隠しつつ、ブラックアートを消費していることを指摘しているように思える」

最後になったが、子どもたちのダンスの振り付けをしたのは、ルワンダ出身のアフリカ人ダンサー Sherrie Silver(シェリー・シルバー)氏。Pigeons&Planesのインタビューで彼女は、「戦争中でも貧乏や飢餓の中でも、ダンスで悲しみを振り払おうとするのがアフリカ人共通の文化」と話している。振り付けの制作にあたって、「ダークなテーマがたくさん入っているので、光が欲しい」と注文があったそうだ。


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金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。