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SUPER JUNIOR「Lo Siento」から溢れるラテンの熱
K-POPが育む韓国ソウルのクリエイターたち

寺本秀雄 寺本秀雄 May 9 2018

世界を狙って拡大を続けるK-POPシーン。冒頭に紹介するSUPER JUNIOR「Lo Siento」のMVのように、その熱気は地球の裏側「南米」まで到達している。さらに音楽の盛り上がりは周辺領域を活性化させ、歌番組や音楽祭のセット美術や映像演出、そして百万・千万・時には億の単位の再生回数を叩き出すMVの世界でも、新たなクリエイターが続々と登場しているのだ。

dir
Gi-Baek Lee
pr
TIGERCAVE
ad
MU:E
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世界を舞台に拡大を続けるK-POPシーン

NEWREEL は世界の様々な場所で行われている映像表現にフォーカスするメディアということで、ここでは韓国の、特に「K-POP」の MV について紹介していきたい。筆者は1人の音楽ファンとしてここ10年ほど K-POP に触れてきたが、そのたった10年の間にも K-POP の MV シーンでは多くの才能が頭角を現し、生み出される表現もどんどんクリエイティブに、面白くなっている。盛り上がり続けるシーンからあふれる熱気の一端を、この記事で感じてもらえたらと思う。

ところでそもそも、K-POP について皆さんはどういうイメージを持っているだろうか?

この春に大学を卒業した新社会人がまだ中学生だった8年前(2010年頃)を振り返ると、ガールズグループ・少女時代(Girls’ Generation)が人気を集め、TVバラエティ「アメトーーク」で「KARA 大好き芸人」が放送されるなど日本にも K-POP ブームが存在した。PSY の「カンナムスタイル」が流行ったのは2012年。このあたり、最早だいぶ懐かしい。

懐かしいといえば、筆者を含む中年世代の一部には K-POP というと90年代後半に流行った李博士(イ・パクサ)ポンチャック(簡単に説明すると、キッチュなテクノ演歌といった感じの音楽だ)や、オジャパメンの話をしたがる貴兄もいるだろう。そんな貴兄たちが、2018年のいま最新 K-POP を話題にすることは必ずしも多くないように感じる。

一方、オジャパメンの後に生まれた今の10代にとっては、昨年の紅白に出場した TWICE(トワイス)BTS(防弾少年団)が大活躍している「今」こそが盛り上がりの真っ只中ではないだろうか。10代の K-POP ファンがスマホで見ている YouTube の関連動画は、現地からポストされる K-POP アイドルの各種動画で埋まっているかもしれない。

こんな感じで、日本での K-POP に対する印象は世代や人それぞれだと思う。しかし一方で確実なのは、そんな日本の様々なイメージをよそに、K-POP は着実にその人気をグローバルに拡大し続けているということだ。K-POP からみて隣国にあたり、市場規模の大きい日本の重要性にはあまり変わりがないにせよ、台湾やタイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールといったアジア諸国や、上海をはじめとする中国の各都市、あるいは北米や欧州、中東へと K-POP の影響範囲はグローバルに広がり、近年では地球の反対側にあたる「南米」を意識した動きも目立ってきている。

グローバルを狙う熱気は、地球の反対側「南米」に到達

一例を挙げよう。この3月下旬には、韓国国営放送 KBS の看板音楽番組「ミュージック・バンク」が南米チリのサンチアゴにて公演を行い、TWICE をはじめ多数の人気アーティストが現地に赴いてスタジアム級の会場で大観衆を前にパフォーマンスを行った。これは例えるなら、TV 朝日の「ミュージックステーション」が南米でコンサートを行うようなものであり、しかもそのために欅坂46や KAT-TUN、星野源、サカナクション、ももいろクローバーZ といったアーティストたちが丸1日近いフライト時間を費やしてこぞって現地に行くような話だ。K-POP が「南米」にかける熱意を感じさせるエピソードのひとつだといえるだろう。

さらに、そんな南米を意識した動きの新たな例になりそうなのが、この記事の冒頭で紹介した男性アイドルグループ SUPER JUNIOR(スーパージュニア)の最新曲「Lo Siento」だ。ラテンの熱気を感じさせる鮮やかな色彩と、同じメンバーが次々と登場するギミックが楽しい MV をぜひご覧いただきたい。

兵役を終えたメンバーたちもグループに戻り、すでにベテラングループといえる SUPER JUNIOR。2009年に大ヒットし、彼らがトップアイドルの地位を不動のものにした代表曲「Sorry, Sorry」を思わせる「Lo Sient」(=スペイン語で「I’m Sorry」)というタイトルのこの曲は、昨年大ヒットした「デスパシート」やレゲトンブームを意識したラテンフレーバーの楽曲だ……というだけでなく、2度のグラミー受賞歴のあるラテン系ヒップホップDJ / 作曲家チーム・Play-N-Skillz がプロダクションに参加し、ドミニカ人の両親を持つNY 在住のシンガーソングライター、レスリー・グレースがボーカルとしてフィーチャリングされるなど、南米地域でのヒットを狙う本気度がうかがえる陣容で楽曲が制作されている。

韓国語メインで歌うメンバーに対し、レスリー・グレースの歌はネイティブの発音による英語とスペイン語だ。南米地域で自然に受け入れられようとする意思がうかがえる。そして実際、音楽配信サービス Spotify で南米各国のバイラルチャートを見てみると、エクアドルとペルーではデイリー最高位2位、メキシコで3位、チリで4位とランキング上位に入るなどしっかり成果を上げ、12時間の時差を超えて多くのファンを獲得しているようだ。

ソウルのヒップホップシーンに根ざすクリエイター、TIGERCAVE

南米を狙い、国際的なチームビルディングによって生まれた「Lo Siento」。その国際的な制作チーム体制の中で、MV をディレクションしたのは韓国ソウルの映像クリエイターチーム「TIGERCAVE」のイ・ギベク監督である。

TIGERCAVE は、彼ら自身が公式サイトで表明しているように、ソウルのアンダーグラウンドヒップホップシーンから生まれ、ヒップホップカルチャーへの支持を身上とする映像制作チームだ。

サイトに掲載された彼らの過去作品をみると、キャリアの始まりを飾る DYNAMIC DUO や SUPREME TEAM をはじめ、JAY PARK、EPIK HIGH、CRUSH、DEAN、GAEKO など韓国ヒップホップシーンの錚々たる顔たちが並んでいる。そして面白いのが、こうしたヒップホップアーティストと同様に、B2ST やTROUBLE MAKER、BOYS REPUBLIC、TEEN TOP、KNK、APINK などなど、いわゆる「K-POP アイドル」の名前が並んでいることだ。K-POP アイドルの MV 制作シーンと、ヒップホップアーティストの MV 制作シーンが密接につながっていることがよくわかる。

そんな TIGERCAVE の魅力を語るにあたり、彼らのMVをもう1本観てもらえるとするなら、2017年の夏にリリースされた ZICO(ジコ)の「Artist」をオススメしたい。「Lo Siento」とも共通する軽やかなシーン展開が、浅草周辺のロケ+スタジオワークで伸びやかに表現されている。

ZICO(ジコ)「Artist」MV/dir Gi-Baek Lee (이기백),pr TIGERCAVE

ZICO は、アイドルグループ「BLOCK B.」のリーダーでありながら、グループがデビューする前の練習生時代からヒップホップシーンでラッパーとして活躍してきたという異色の経歴を持つ「アーティスト」だ。現在でも変わらずアイドルとして TV の歌番組で笑顔を振りまく一方で、自らプロデュース・作曲・ラップメイキングをこなし、FANXY CHILD というクルーを結成し楽曲をリリースするなど、ヒップホップシーンでの活動にも余念がない。

そんな彼自身の既成の枠を外れた活動スタイルや、「みんなアーティストなんだ自由にやろうぜ」という楽曲のポジティブなメッセージを、TIGERCAVE はどこかラフなハンドメイドの味わいを残す合成とカットアップを自由自在に繰り出し、愉快で楽しい MV に結実させている。ヒップホップという音楽形式そのものにも通じるような自由な発想の映像スタイルは、彼らが最も得意とするところだと言えるだろう。

拡大を続けるK-POPと、作品を生み出し続けるソウルのクリエイターたち

今回紹介した TIGERCAVE だけでなく、本稿の前半で紹介した TWICE「What is Love?」を撮った「NAIVE」、BTS を撮った「LUMPENS」、そして今回は紹介できなかったが「DIGIPEDI」「VM PROJECT ARCHITECTURE」といったソウルの才能あるクリエイターが、今日も新たな MV を撮り、表現を研ぎ澄ませ、経験値を積んでいる。

そして、「Lo Siento」の MV でも大胆な色彩と繊細な質感のアートワークをみせていたキム・ボナとパク・ジンシルの女性2人組アートデュオ「MU:E」(ムイ)など、ディレクター以外の制作クリエイターにも若い才能が登場している。

世界を狙って続々とリリースされる K-POP のために、これからも多くの MV が生み出され、才能が育まれていくだろう。彼らの公式 Instagram やサイトをみていても、驚くほどのペースで作品を生み出し続けているソウルの映像クリエイターたちからは、これからもますます目が離せない。


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寺本秀雄

昼はゲーム開発スタジオで企画開発プロデューサー。夜はエレクトロニック味のあるハウスミュージックとK-POPを掘る。