©2019 HUMAN LOST Project
「HUMAN LOST 人間失格」
昭和 111年──医療革命により死を克服し、 環境に配慮しない経済活動と19時間労働政策の末、GDP世界1位、年金支給額1億円を実現した無病長寿大国・日本、東京。大気汚染と貧困の広がる環状16号線外“アウトサイド”で薬物に溺れ怠惰な暮らしをおくる“大庭葉藏”は、ある日、暴走集団とともに特権階級が住まう環状7号線内”インサイド”へ突貫し、激しい闘争に巻き込まれる。 そこで”ロスト体”と呼ばれる異形体に遭遇した葉藏は、不思議な力をもった女性“柊美子”に命を救われ、自分もまた人とは違う力をもつことを知る。 暴走集団に薬をばらまき、ロスト体を生み出していたのは、葉藏や美子と同じ力をもつ男“堀木正雄”。正雄はいう。進み過ぎた社会システムにすべての人間は「失格」した、と。 文明崩壊にむけ自らのために行動する堀木正雄、文明再生にむけ誰かのために行動する柊美子。平均寿命120歳を祝う人類初のイベント“人間合格式”を100日後にひかえ、死への逃避を奪われ、人ならざる者となった大庭葉藏が、その果てに選択するものとは──
第23回ファンタジア国際映画祭にて、アニメ部門・今敏アワードの特別賞を受賞、10月28日より開幕した第32回東京国際映画祭の特別招待作品としての出品された「HUMAN LOST 人間失格」。
太宰治生誕110周年の今年、太宰治「人間失格」が、最高峰のクリエイター陣によって大胆に生まれ変わった。
参加するのは、木﨑文智(「アフロサムライ」「バジリスク 〜甲賀忍法帖〜」)× 本広克行(「踊る大捜査線」「PSYCHO-PASS サイコパス」)× 冲方丁(「マルドゥック・スクランブル」「天地明察」)× ポリゴン・ピクチュアズ(アニメーション映画「GODZILLA」「BLAME!」)、そして、コザキユースケ(「PokemonGO」「ファイアーエムブレム」)によるキャラクターらが、アクション満載に盛り上げる。
10月28日より北米公開、11月29日より日本での公開に先駆け、マルタ島で開催されたクリエティブイベントTHU (Trojan Horse was a Unicorn)にて上映に出席した、企画&プロデュースを手掛けるスロウカーブのプロデューサー橋本太知氏は、なぜ、太宰の「人間失格」なのか?という問いにこう答えてくれた。
マルタ島で開催されたTHU会場より。プロデューサー橋本太知氏(スロウカーブ)
働かなくてもいい高等遊民と呼ばれるような若者が生まれるほど、社会が爛熟してはじめて、心の問題って出てきたと思うんです。世の中が貧しいうちは、生きていくために必死に働いて、それどころじゃない。「自分とは何なんだ?」と心と向き合い、漠然とした不安をいだき、自殺を繰り返す。身の回りの卑近な人間関係や心の問題と、世界の問題が直結した状態を描いた、いわゆるセカイ系の一番のはしりが太宰なんじゃないかと。それが、アニメ化しようと思ったきっかけです。
破滅に至った一人の男の生涯を通して、その深い死生観を描いた文学性は、100年たった現代の社会と地続きにあると橋本氏は続ける。
今の世の中は、1+1=2という一般論が過度に遍満する社会にあるように思います。そんな時代の映画作品を考えたとき、白黒をはっきりさせる結末は、その場は楽しめるかもしれませんが消費されるのも早い。未来に生き残るかどうかは疑わしい。この映画の背景には、そういう世の中へのアンチテーゼもあります。オーディエンスも、難しいから苦手な方が多いのではないかと言われていますが、本当にそうでしょうか?エモーショナルにひっかかるパワーがその作品にあれば受け止めて貰えると思うんです。それこそ日本文学の傑作と言われる太宰治も三島由紀夫も1+1=2のような話ではないですよね。”何だかわからない、だけど面白い”に挑戦した作品です。
©2019 HUMAN LOST Project
太宰治生誕110周年を迎える2019年秋、未だ誰もが経験したことのない「人間失格」が、世界に挑戦する。グローバルに展開する本作が、ジャパニーズアニメーションにおける新しいひとつの礎を築くことに期待したい。