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TVアニメ「オッドタクシー」監督・木下麦と
アニメーション作家・山田遼志による OPを巡る対談!

kana kana Sep 7 2021
左から)山田遼志(アニメーション作家)、木下麦(「オッドタクシー」監督)|Photo by Shina Peng| IG:@shina.peng

アニメーション監督の木下麦 (P.I.C.S. management) にとってTVアニメ監督デビュー作となる「オッドタクシー」。動物の登場人物が繰り広げるリアルでサスペンスに満ちたドラマが話題を呼んでいる。そのオープニング映像(OP)を全幅の信頼をもって託するのは多摩美術大学生時代の先輩となるアニメーション作家・山田遼志 (mimoid)。OP映像の制作過程や、作家性についてそれぞれが思うことなど、先輩後輩のいい距離感での対談をお楽しみください。

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輪郭線なし&三枚ビビりで
かわいさを追求したオープニングアニメーション

アニメ「オッドタクシー」オープニングアニメーション|オープニングテーマ : スカートとPUNPEE「ODDTAXI」
監督:山田遼志 (mimoid) |原画 :山田遼志 (mimoid) 、結城一成、中内友紀恵、弘重友歌、辻敬太| 制作:別所梢 (mimoid)

──多摩美術大学時代の先輩後輩であり、アニメーション作家として活躍中のお二人ですが、まず山田さん「オッドタクシー」の本編を観られていかがでしたか?

山田遼志(山田):設定の深さがえげつない。ここまでやるのか~って思いました。社会派ドキュメンタリーに出てきそうな「追い詰められた加害者は!?」みたいな凄みがありました。それは脚本にも感じたし、キャラクター設定にも感じました。例えば、美人局にハマっていく中年男性キャラクター、柿花の描写なんかも、ここまでやっちゃうの!?って。そういうところにワクワクしましたね。

木下麦(木下):ドキュメンタリーって嬉しいです。リアルさというのは目指したところでした。アニメで表現していますが、自分の中ではリアルなドラマを描きたかったんです。生々しいエピソードはもちろんのことですが、映像演出の面でも、カメラワークや声優さんの演技にも、実写ドラマの演出方法を意識しています。


TVアニメ「オッドタクシー」

原作:P.I.C.S. |dir: Baku Kinoshita|story: Kazuya Konomoto| animation prod: P.I.C.S.× OLM|music: PUNPEE, VaVa, OMSB|cast: Natsuki Hanae and more.
「オッドタクシー」は現在BSテレ東で放送中。またはAmazonプライムビデオでも見放題独占配信中。詳細はオッドタクシー公式サイトから。

あらすじ:平凡な毎日を送るタクシー運転手・小戸川。身寄りはなく、他人とあまり関わらない、少し偏屈で無口な変わり者。趣味は寝る前に聞く落語と仕事中に聞くラジオ。一応、友人と呼べるのはかかりつけでもある医者の剛力と、高校からの同級生、柿花ぐらい。彼が運ぶのは、どこかクセのある客ばかり。バズりたくてしょうがない大学生・樺沢、何かを隠す看護師・白川、いまいち売れない芸人コンビ・ホモサピエンス、街のゴロツキ・ドブ、売出し中のアイドル・ミステリーキッス…。何でも無いはずの人々の会話は、やがて失踪した1人の少女へと繋がっていく。


──山田さんが手掛けたオープニング映像(OP)についてお伺いしたいと思います。前提として木下監督はTVアニメにおけるOPをどう捉えていますか?

木下:OPって作品の世界への入り口なので、個性的なものにしたいと思っていて、遼志さんなら密度高くてパンチのある映像を作ってくれるだろうなって。卒業してからずっと会えてなかったんですが…。全幅の信頼をおける先輩なんで相談しました。

山田:美大あるあるなんですけど、就職すると忙しくなって友達と遊ぶ余裕もないし、自分の作品をつくる時間も気力も奪われていく。それで大学時代の友達とは疎遠になって、気がついたらアニメーションを続けてる人なんてごく僅か。アニメーションを続けるのも根性いりますから。麦ともこの件で5年ぶりの再会だったよね。

相談をしてもらったのは嬉しかったんですが、実はぼくはアニメを観る時、OPを飛ばしちゃう派。映画のエンディングも最後まで座ってられないタイプなんですね。だからOPについて何も知らない状態でした。だけど麦がどれだけ時間かけてこの作品を仲間とここまで創ってきたかっていう話に感動して、二つ返事で受けました。そこで初めてOPについて考え始めるっていう。さすがにやるって決まってからは色々と研究したり、制作経験のあるmimoidの仲間に聞いたりしながら、最終的にOPであまり使われないアニメーションの手法を使おうって結論にたどり着いたんです。

──また本編とも違う独創的な雰囲気が魅力的ですね。

木下:「オッドタクシー」は、ヒットした原作コミックあるわけでもなく、全くのオリジナルアニメーションなので誰にも知られていないアニメなわけです。第一印象となるOPは、間口が広く楽しげな雰囲気にしたいという思いがありました。「オッドタクシー」にばったり遭遇した人に「なんだかかわいいな、楽しそうだな、観てみようかな」って思ってもらえるといいなって。

それで、参考として「スパイダーマン:ホームカミング」のエンディングを遼志さんに持っていきました。映画本編は実写なのですが、エンディング映像はアニメーションになっていて、クレヨンで描いていたりテープを貼ったりしている、アナログタッチがすごくかわいい映像になっています。遼志さんはそこから子どもが描くようなタッチを上手く拾ってくれたんじゃないかなと思っているんですけど、どうですか?

山田:それは意識したところ。スパイダーマンのエンディングはいろんな表現のアニメーションが詰まっていて、楽しい雰囲気を醸し出しているのが魅力だよね。「オッドタクシー」でもいくつかの手法を取り入れようかなってところから考え始めた。どこまで攻められるかな〜って探っていったんだけど、スパイダーマンは音楽がラモーンズの勢いのあるトラックだから、いろんな技法が混在しているのが楽しいんだけど、「オッドタクシー」の楽曲はもっとしっとりしていてゆるさも魅力。これはアニメーションでやりすぎないこともポイントだなって。技法の遊び心と音楽とのバランスが両立をするところを探りながら、デジタルで描いているところに、アナログの水彩を取り入れて手書きの感じを加えたり、決めすぎないレイアウトにこだわったりしています。

──子どもが描くようなタッチ、というところではどうですか?

山田:麦の言う「かわいさ」や「楽しさ」を実現するために取り入れたのが、「三枚ビビり」って呼ばれる手法で、絵の線が常に揺れている表現。三枚ビビりによって絵が決まりきらないっていうか、ある種のゆるさが生まれて、いい空気感が作れたんじゃないかと思ってます。もう一つの工夫が、キャラクターは輪郭線のない仕上げにしていること。ゆるさとかかわいさを最大限に出せるように考えた結果です。持論ですが、輪郭線を強く描くと不穏さが強調されると思っていて。でも正直なところ、色面だけで構成されているアニメってちょっと抵抗があったんだよね。

木下:そうなんですか??どうしてですか?

山田:インディペンデントアニメーションで流行っているから(笑)。天の邪鬼なところがあるから、「これは俺はやらないぞ」って思ってたんだけど、そこを突き通すと、かわいさやゆるさからどんどん遠ざかってしまった。もう覚悟しようと、決断したの覚えています。その代わり三枚ビビりや、OPのフォーマットにはまらない構成にして、独創性みたいなものは担保するように意識しています。

木下:個性的かつ万人受けするものっていう、なんとも難しい依頼だったと思いますが、数回やりとりしただけですんなりと形にしていただきました。

伏線とミスリードが巧みに仕込まれた構成

──本編でもオープニング映像においても、考察しているファンが多いのが特徴的な作品だと思いますが、OPに仕込まれた伏線は積極的に狙っていったのでしょうか?

木下:本編の伏線になるような描写や、遊び心のある仕掛けをたくさんいれてくれていますよね。脚本をすごく読み込んでもらったんだってわかる構成が絶妙です。

山田:ぼくは意識的に、つじつま合わせというか、つじつまズラシみたいなことをしたいタイプ。このOPでは、伏線を張ると同時に、ミスリードも入れていくのが一つのテーマだった。話とは直接的に関係のないシーンを意味深にいれてみたり。その一例がドブがパンチしているサンドバッグから柿花が出てくるんですけど、本編では二人は直接関係していないんです。話の筋から言うとヤノか関口だろうってところを敢えてすり替えています。

木下:あと「ネコ」。本編でネコの謎が明かされるのは最終話だから、放送回を増すごとにOPが楽しめるってコメント、多いです。

山田:あれはぼく自身が、脚本を読んだ時に騙されたところ。それと押入れっていう存在は、「頭の中」みたいなところがあるから、次に続くシーンでは押し入れが小戸川の後頭部になって、頭が回転する描写に続けています。

──見た目のかわいさとは裏腹に、本編のサスペンス要素を示唆するような描写も印象的です。

山田:OPの制作に着手した時は、キャラクターデザインと脚本のみが完成してるタイミングでした。脚本をベースに、主人公の小戸川や、キャラクターの関係性をどうOPアニメーションに落とし込んでいくかを考えた時、麦からの「かわいらしさ」や「楽しげな感じ」というお題はありながら、同時にヒップなトーンと不穏さも入れ込んでいくことを意識したところです。

木下:不穏さがはいることで本編で描かれるサスペンス要素を匂わせる効果や、大人にも興味を持ってもらえる渋さがでますね。

山田:基本的には「これは入れたい」っていう直感的に響いたシーンを優先して拾っていって、何が合うのか合わないのかを取捨選択していったんですけど、「楽しさと不穏さ」のバランスを考えるのは制作過程において一番揉んだところ。なかでも絶対に取り入れたいと思ったのが、小戸川の頭が回っているのを剛力先生と白川看護師が診ているという描写。ただTVで広くオンエアされる映像において、頭だけが回っている表現って許されるのかな?首ちょんぱを連想させちゃうのかなって、恐る恐る案を出しました。


木下:
そうなんですか!?ぼくは観た瞬間にいいなって思いました。大門兄弟がホモサピエンスの頭の上で飛び跳ねているシーンも早い段階でできてましたよね。

山田:あそこもピンときた場面だけど、同じく恐る恐る提案した場面。このシーンには「警察が芸人を圧迫している」という意味合いを込めてみたけど、さすがにそこまでは、誰もツッコんでんでくれなかった(笑)。TVアニメーションのオープニングが初めてだったこともあって「こんなことしてもいいのかな~」って思いながら提案したものばかりだった。そうやって本編の印象的だったシーンをイメージボードに落とし込んで、「オッドタクシー」チームとすり合わせをしながら最終のカットを絞り込みました。

木下:鮮やかだなって感じたのが、キャラクターの人格を汲み取って、ポップに再解釈して表現する感性です。特に柿花の腕が千手観音のように増殖してスマホを操作しまくるころとか。

山田:ぼくは、親しい友達から口が悪いってよく注意されるんですよ。自分的には悪口のつもりはなくて、ブラックユーモアの範囲なんですけど。とにかくその能力を使って脚本からのインスピレーションを毒舌的に翻訳して描写しているところがあって。樺沢の頭が膨れて縮んで最後にパーンって割れる場面で言うと、承認欲求が満たされなくてどうしようもなくなっているというエピソードから、「あいつは風船野郎だな」っていう着想から表現に落とし込んだり。そういったブラックユーモア的な解釈をいかにポップな描写で仕上げていくかには時間をかけています。

アニメーション作家は”作家性”をどう考えているの?


──木下さんは「オッドタクシー」で長編となるTVアニメを初監督ということですが、そこにプレッシャーはありましたか?

木下:めちゃくちゃありました。やっぱり一流の脚本家さんや、花江夏樹さんをはじめ錚々たる声優さんを、自分の出した企画に巻き込んでしまってるって考えると、もうプレッシャーしかないです。しかもヒットした原作コミックがあるわけでもないオリジナルアニメが、世間に受け入れてもらえるかどうか未知数です。下手なものはつくれないぞっていう気持ちでいっぱいでした。

──どうやって自分を奮い立たせたのですか?

木下:もう真面目に手を動かし続けることしかできなかった。誠実にスタッフと向き合って、考えるより手を動かして一歩づつすすんでいきました。それでプレッシャーがなくなるってことはないのですが、結局それしかできることはないんです。

山田:しっかりしてるな~。

木下:遼志さんは、プレッシャーとどう向き合ってますか?

山田:自分を信じるしかない。制作中って多かれ少なかれ「これでいいのかな」っていう自分の中でダウトも生まれやすいし、逆に調子に乗ることもある。そんな時こそ、しっかりと手を動かすことを大事にしてる。それがほんとうの意味でイケてるってことだと思ってる。

木下:あと思いの外苦労したのが、長編になると関わってくる人が増えますが、みんなに情報をきちんと伝えるという監督業務。プロダクションのはじめの頃は全くうまく伝えられなくて、集団でのモノづくりの難しさを痛感していました。この制作を通して多くの人に伝える術はすごく鍛えられたと思います。

──山田さんは、MVなど濃密な話題作をコンスタントに作り続けていますが、長編にトライしたい気持ちはありますか?

山田:あります、あります。それで麦に聞いてみたいことがあって。作家性って長編になったときどんな形で宿るんだろうって。短編アニメーションは作家性がすごく出やすい媒体だと思うんだけど、長編となると制作スタッフも多くなって、自分の手から遠くなっていくじゃない?長編だったら実写のほうが監督の作家性って出しやすいのかなって考えたり。この作品を作る上でどんなことを意識した?

木下:ぼくは作家性って物語に勝手に滲み出るものだと考えてるんです。主人公が空想の世界に入って意識の変化を経て、現実に戻ってくる様を描くという変化の過程を描くことは自分の中では卒業制作から変わっていなくて。この世界で、庭に咲く花がきれいだとか、空に浮かぶ雲がいいな~とか身の回りにある幸せや価値に気づくことが大事なんだってことを表現したい。自分の人生のテーマなのかもしれません。だから長編となると、物語となる脚本は骨組みだから超重要で、その骨組みにブレずに作家性がでていれば作品として大丈夫なんだと思う。今作は此元さんの脚本がまさに僕自身が持つテーマに近い表現してくれていて、この縁には感謝しています。此元さんと感性が近いと感じているんですが、ぼくの作家性も出せたし、此元さんの作家性も出ていると思っています。

作家性と言えば、遼志さんは先日監督した「Trepanation」のMVで、「作風を封印した」って投稿していましたが、遼志さんは作家性が強そうなのに、殺しているとういうのは何か心境の変化があったんですか?

山田:「果たして作家性は、勝手に立ち上がるものなのか?」っていうのを考えていて、作家性を「出さずに立ち上げる」ことを実験的にやってみた。どう立ち上がるのかを確認したかった。ぼくはね、意識しないと”作家性”が消えてしまうタイプだと自認していて。企画やテーマに寄せていく傾向があるから、”作家性”を強く意識することで毎回戦ってるって感覚なんだよね。麦の言う、「ドラマにおける作家性」って具体的に言うとどういうこと?

木下:ドラマ性って人の心を動かすことであり、つまり感動ですよね。ぼくの考える感動の仕組みって、新しい価値観を知ることだと思っているんです。その時代の新しい価値観を提供できるかどうかなのかなって。ぼくは内側にこもりがちな性格なんです。考えが先走って取越苦労をしたり、頭でっかちになる。それって小戸川の人物像ともまさに重なっているんですが、そういうのがコンプレックスとしてあって、それを打開したいという思いを、今の時代の課題に置き換えてアニメーションに込めているんですね。

山田:個人の視点がそこにはあるってことか。作家性と言ったときに捉え方もいろいろありそうだね。

──作家性を骨に宿らせるのか、もしくは肉に作家性をみるのか、それぞれのアプローチがあるというのは興味深いですね。ありがとうございました。

山田遼志|アニメーション作家
2013年多摩美術大学大学院修了。2018年に文化庁海外派遣研修員として、ドイツのフィルムアカデミーに一年在籍。広告映像に携わりながら作品制作を行う。アヌシー国際アニメーション映画祭をはじめ国内外の映画祭やメディアで上映、掲載、受賞。代表作にKingGnu「PrayerX」、「Hunter」など。
Twitter:@ryojiyamada
Instagram:@ryoji_yamada

木下麦|イラストレータ、アニメーション作家
多摩美術大学在籍時からイラストレーター・アニメーターとして活動を開始。自ら企画したオリジナルテレビアニメーション「オッドタクシー」では、監督・キャラクターデザインを担当した。P.I.C.S.management所属。
Twitter:@mugicaan1
Instagram:@mugicaan

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NEWREELの編集者。コツコツと原稿を書く。