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Feature

ももクロ at 東京キネマ倶楽部
プレミアムショーの舞台裏を多田卓也監督と振付師のavecooが語る

Supported by KING RECORD CO., LTD
NEWREEL Dec 27 2019

12月25日リリースされた「5th ALBUM『MOMOIRO CLOVER Z』SHOW at 東京キネマ倶楽部」の Blu-ray & DVD。この発売を記念してショーの演出を担当した多田卓也監督と振付師のavecooさんの対談を公開。

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ただ(ゆかい)
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ももいろクローバーの結成記念日5月17日に、東京・キネマ倶楽部で行われた伝説のライブ「SHOW」。2日間に渡って行われたそのライブは、通算5枚目となるアルバム『MOMOIRO CLOVER Z』の世界観を表現したものだった。このクリスマス、12月25日に遂にそのライブが Blu-ray & DVDとなってリリースされた。大人なももクロが元グランドキャバレーのキネマ倶楽部の空間に舞う「5th ALBUM『MOMOIRO CLOVER Z』SHOW at 東京キネマ倶楽部」。発売を記念してショーの演出を担当した多田卓也監督と振付師のavecooさんの対談をお送りする。

「5th ALBUM『MOMOIRO CLOVER Z』SHOW at 東京キネマ倶楽部」TEASER Vol.2

──5th ALBUMの発売記念となった、東京キネマ倶楽部でのライブは、これまでのももいろクローバーZと違ってかなり特殊なものですよね。このプロジェクトはどのようにはじまったものですか?

多田 ももクロは東京キネマ倶楽部でちょこちょことライブしているんですよね。結成11周年記念となるアルバムのリリースライブなんで、普通にやっても面白くない。だったら、キネマ倶楽部のスタイルに合わせた、プレミアムライブをやろうっていうのが決まっていました。

多田卓也 映像監督。1979年生まれ。神奈川県出身、上智大学ロシア語学科卒。2003年映像制作会社 SEPに入社。ディレクターズルームに所属しミュージックビデオ、LIVE映像の演出を数多く手がける。2012年独立。

──キネマ倶楽部は、元々グランドキャバレーだった場所ですし、ちょっと怪しくて大人な空間ですよね。しかし多田さんは主にMVの監督でいらっしゃるわけですが、ライブの演出もされるんですね。

多田 そうですね普段はMVを撮っていて、ももクロだと「境界のペンデュラム」と「クローバーとダイヤモンド」のMVを監督しています。これらの作品が、今回のショーに繋がっている要素もあると思います。

──以前から、ももクロと仕事されてるんですね。

多田 最初の関わりはDOMETREK2016の出し映像とライブ収録でした。ももクロはMVの監督が、ライブの総監督を担当することが多くて、その流れで(今回の演出が)僕の所に来たんだと思います。

──avecooさんも、ももクロとはお仕事されているんですか?

avecoo アタイ、はじめてです! 枝豆さんにまず今回のお話がいって「自分一人じゃできないから、avecooちゃんが絶対いいと思う」って。

avecoo ダンサー、振付師、演出家。渡辺美優紀、ももいろクローバーZ、平井堅、安室奈美恵、和楽器バンド、SKE48等の振付。日本最大級のダンスコンテスト、Legend tokyoで7代目レジェンドとして優勝。

多田 枝豆順子さんというのは出演者(枝豆れに)兼演出をやってくれた方です。それと、舞台監督の門田頼枚さんの4人で、ステージを作り上げていきました。

──4人で集まって内容を決めていったんですか?

多田 「一度、多田さんの方で決めてくさい」とのことだったので、どうしようかな…と。最近、振付師さんがライブの演出をしたり、それこそ映像の監督がやることも増えてきてますが、僕的にも映像じゃない演出はチャレンジでした。しかもももクロなので、これはいろいろとやれそうだなと。キネマ倶楽部の雰囲気を生かしつつ、ドラァグクィーンを入れて、大人なももクロを目指しました。普段からMVでもドラァグクィーンさんに出演していただく事が多く、自分の得意なジャンルでもあったし。

──セットリストは、アルバムの曲順そのままなんですね。

多田 考え方としては、「60分間ワンカットで、アルバムの全曲映像を作る」という感じです。まずは曲を聴いて、「この曲は最後死ぬよね」「この曲は復活するよね」と曲ごとのイメージを探っていって。中でも「華麗なる復讐」が、ショー全体の根本になりましたね。“ベンジェンス”っていう概念が出てきたので、この“ベンジェンス”をまず敵役として登場させて、これと戦うももクロっていう軸を作って。ベンジェンス役は、人間離れしている人がよかったので、ホッシーさんという衣装デザイナー兼ドラァグクィーンの方をキャスティングしました。他にも、今回のキーマンとなった小人バーレスクダンサーのちびもえこちゃんとか、自分の周りにいる面白いパフォーマーの人たちに声をかけたりしながら、キャラをだんだん決めていきました。

──ストーリー的なものはあるんでしょうか?

多田 このアルバム自体が、一本のストーリーに基づいて作られたものではなくて、様々な楽曲を制作していくうちに、ショーのようにグッとまとまってできたそうです。じゃあそれなら、僕も曲ごとに自由に発想して、最後にグッとまとめようと。

──avecooさんとはどういう打ち合わせをしていったんですか?

多田 動きに関してはavecooさんにざっくりとこの曲ではこういうことがやりたい、こういう人たちが出てきて、ももクロとの間に対立関係を出したい、というようなことをお伝えして、ダンスに落とし込んでもらいました。

avecoo ぶっちゃけ、アタイ、ももクロのことあんまり知らなくて。アイドルとかあんまり聴かないので、ももクロに対するイメージがもともとないんですよ。だから逆に多田さんからもらったライブの企画内容が面白くて、ももクロとは関係なく「とりあえず素直に作ってみよう」って。彼女たちのイメージがあると逆に作りにくかったかな。何もないから自由に挑戦できたってのはありますね。

──振付も限られた空間という制約が難しかったですか?

avecoo そんなことはなかったです。ももクロは初めて一緒にやるのに全てを任せてくれたので、めちゃくちゃやりやすかったですし。しかも彼女たちは日頃からいろんなことをやっているので、対応する能力が高いし。なのではじめからあまり決め込まずに現場で作りながら、はめていくっていう作業でした。形になっていくその過程が楽しかったです。

多田 彼女たちは本当に特殊なグループ。素晴らしい人間性で周りを巻き込む力もあるし、自然体。モノノフ(ももいろクローバーZのファンの総称)さん達と面白いものを作りたいっていうのをすごくしっかり認識して、任せるところは任せてくれる。どんな提案だったとしても、1回のってやってみようとしてくれます。スターダスト&キングレコードの担当者さんたちとのチームワークもすごくいい。

──アルバム自体もちょっと大人な雰囲気じゃないですか。振付では動きを大人な感じにとか、普段振付られている動きを封じたりとかいろいろやった感じですか?

avecoo いや、本当にアタイのいつもの振付って感じでした。

多田 「レディ・メイ」は大人っぽい曲なので、セクシーな踊りも見せようっていう狙いはありましたね。タキシードの衣装は先に決まっていたのですが、この衣装でよかった。動きや表情で、衣装の露出じゃないところで、大人のセクシーさをavecooさんが引き出してくれたと思います。

ももいろクローバーZ / レディ・メイ
(from 5th ALBUM『MOMOIRO CLOVER Z』SHOW at 東京キネマ倶楽部)

ももクロとドラァグクィーンが対でベンジェンスに立ち向かう

──ももクロのメンバーそれぞれに一人づつドラァグクイーン「化身」となって割り当てられてましたね。スタンドみたいだなと思いましたけど、あの演出どこから?

多田 ベンジェンスという敵を想定して考えていく時、それぞれの曲の雰囲気もバラバラだし、テレビアニメのように考えていきました。敵が出てきて戦う回、トラウマのストーリーの回みたいに、ブツ切りにした設定がアニメっぽいというか。そこに、なんでもありのパラレルワールドをもってきて、M4「あんた飛ばしすぎ!!」で、ババババンって撃たれて死んで、M5「魂のたべもの」で現実に戻る。ももクロを演じるももクロをももクロにやってもらうみたいな構造。いろんな制限の中作らなくちゃいけないこともあって、化身としてドラァグクィーン4人を色分けしてメンバーと対にしてストーリーをすすめていこうと考えたんです。ちなみに、ももクロが醸し出す真摯な姿勢に、初対面だったドラァグクィーンもリハーサルや本番を通して、結束がすごい高まっていく感覚がありました。

avecoo ドラァグクィーンのみなさん、やっぱりキャラが強いから。だけど全員が演者だったので、いいバランスが取れたと思います。

多田 一座っぽさがありましたよね。

avecoo そうそう。

映像演出とライブ演出について

──贅沢ですよね、たった二日間のためにこれをやるっていうのは。だからこの記録映像は重要ですね。多田さんは普段は映像がメインなわけですが、舞台の演出としてやりたいことと、映像としてやりたいことで矛盾は起こらなかったのですか? 特にキネマ倶楽部って、狭くてカメラが動き回れるわけでもないし。制約多そうですよね。

多田 本当キネマは撮りづらいんです。会場には、640人のお客さんが、キャパギリギリにびっしりと入ってらっしゃいますし、引きのバーンという画を入れられない。カメラを入れられるところないじゃん(笑)。割り切りとちょっとした工夫を沢山していますね。

良かったことは、僕がライブ演出とライブ収録の監督の、2つの演出を一緒にやれるってことで、かなりワガママが言えた。映像作品として残す場合、ここにカメラがあるといいじゃんっていうのが、舞台チームと収録チームに分かれていると言えないんですよ。「こんな演出にしたら映像的にも面白いのにな」っていうアイデアもいろいろあって。今回は制限のある環境と予算だったけれど、そこに関しては悔いはないというか。収録スタッフもももクロさんをずっと撮ってきているMAZRIのチームなんでチームワークがすでにできていたこともクオリティには貢献しています。

──ちびもえこちゃんが壇上でカメラマンをやっていましたね。彼女のカメラテイクのぱっと上からの映像が出てくると、いい意味でびっくりしますね。

多田 はい、それも面白いとよく言ってもらいます。リハーサルでどういう画が面白くなるかっていうのを検証してカメラを託しました。すごく簡単なことなんだけど、ライブの演出で、演者がカメラを回してそれがアングルになるっていうのは効果的だったと思います。ライブ収録って環境的な制限だけじゃく、安全面も考慮しないといけなかったりするので、複雑な撮影方法は敬遠される傾向なんです。だからこそ、ちょっとした工夫が効いてくるんです。

振付について

──avecooさんにもうすこし、振付のことを聞いてみたいとおもいます。それぞれのメンバーに対して、感じたことはありますか?

avecoo アタイの振付が一番合うのがあーりん(佐々木彩夏)。セクシーさがあります。かなこぉ↑↑(百田夏菜子)。彼女はこれまでセクシーな振付というのはなかったと思うので意外性ありますよね。しおりん(玉井詩織)や、れに(高城れに)ちゃんはさすがの対応能力の高さを感じました。でも、きっとみんな最初は戸惑いはどこかにあったんじゃないかと思います。ずっと同じ振付師とやっていたので、どうみえるんだろう?っていうのはあったんじゃないかな。

多田 初回の振り入れからavecooさん、一瞬で仲良くなってましたよ。avecooさんの懐に入っていくスキルと、ももクロのavecooさんの懐に入るスキルの高さに関心しました。avecooさんはダンス以外でも、動きも振付てくれているんです。

avecoo 今回はショーなので動き全般を、舞台を作っている感じですよね。ももクロの振り付けを担当するのがはじめてにも関わらず、信頼して託してくれるんですね。ある程度キャリアのあるアーティストさんだと、自分の見え方の方程式のようなものがあって「ここはこうじゃないとだめ」というケースもよくあるんですが、とりあえずのっかって色んな自分を発見しようとする。そういう姿勢は一緒にやっていてワクワクする。振付家としてアタイをリスペクトしてくれているのが伝わってくるので、本当にコラボレーションできたって感じます。

フェイクエンディング?

──チャレンジでいうと、どんなところが難しかったんですか?

多田 このライブのチケット代が高かったので(12,000円)、それに見合ったプレミアムな体験をしてもらいたいなと考えていました。でもプレッシャーだったのは、ももクロの通常のライブに比べると尺が短い。通常3時間くらいのところたったの70分に! しかも、アルバムの曲のみ、曲順も変えれない、MCもナシの予定という縛りあり。キネマ倶楽部という場を活かしたいけど、オールスタンディングなのでディテールにこだわっても後ろの方の人には伝わらない。そういうところが、作っていく上では難しかったかな。映像よりも体験を重視して、生の体験にプライオリティをおいて、友人から借りてきた獅子舞をもってきて「GODSPEED」の祭りっていうコンセプトを表現したりして。

avecoo 多田さんに内緒でフィナーレの獅子舞にアタイ出たんです、勢いで。パーティー感があったかなって。

──メンバーも気がついて何か言っていましたね。そういう意味では生っぽさがありますね。

avecoo 途中でベンジェンスが改心して、手下ダンサーズたちが綿菓子をもってきて、ホッシーさんが謝りにくるシーンがあるんですが、初日からホッシーさんが出てこなかった。

多田 そう! 一旦ステージを下がった後、また舞台に戻ってきて、綿菓子を配りながら謝る、という流れなのに…出てこない。

avecoo 多田さんの対応がすごいのが「ホッシーさんは綿あめ機になったんだよね~」って。すごいなって。面白かった。

多田 1日目はそれでいいかって。でも、勢いで突き進んだ感はありましたね。モノノフさんのコミュニティがあるので、1日目に来てくれた人と2日目に来てくれた人が、ああだった、こうだったって盛り上がってもらえるといいなって。

──ところで、かなり大胆な構成で驚いたのが、真ん中あたりで1回終わりますよね。

多田 (笑)。今回の60分ショーをどうモノノフさんに届けるかを考えた時、とにかくサプライズが必要だなと思ったんです。”フェイクエンディング”って呼んでます。セットを変えられるわけでもないので、そういう構造でサプライズを作ろうと。マトリョーシカじゃないですけど、死んで終わったと思ったらまた始まる。そんなループ感を作ろうと思ったんです。MVの演出をしている経験が生きた場面でもあったと思います。それと、物理的に舞台上の紙吹雪を片付けなくてはいけなかった。通常なら、ステージが暗転して、その間に一斉に片付けたりしますが、もう、スタッフが入ってきて片付けちゃいましょう、と。メンバーに向かって「そこ、片付けてー」ってアドリブで言ってもらう演出にして。カーテンコールそのものが好きだから、あれって最後だけにやる必要ないじゃんって。

avecoo 2回やっちゃいましょうって。わはは。

──なんだかレコード盤をひっくり返すみたいな、もう一回始まる感じが楽しかったですね。

多田 B面がはじまるみたいな感じで。1回展開をリセットさせて、メリハリを付けているんですね。ライブ演出をやってみて感じたのは、撮影の時も現場の空気ができてないといい映像は撮れないんですが、そういう意味ではライブも一緒だなって。その空気感はお客さんにも伝わるもんだと思っています。トーンというか雰囲気を作ることの大事さを改めて感じたというか。

Blu-ray/DVDについて

──25日に発売のBlu-ray とDVDですが、ももクロのメンバーが集まってわいわいしゃべっているオーディオコメンタリーもまるっとひっくるめて一つのショーになっている気がしましたね。

多田 あれは打ち合わせなしの一発収録。ショーを作り上げていく過程で自然体な彼女たちの魅力がすごく出ているコメンタリーです。映像も舞台では伝わりきらなかっただろう演出を改めて楽しんでもらえるんじゃないかと思います。例えば、「リバイバル」で 現実の世界からもう一度ショーの世界に戻る演出をいれているんですが、初見ではそこまで明確に伝わらないレベル。だから、この解説を読んでくれている人や、DVDを見ている人は、そのへんも楽しんでもらえたら。

avecoo ライブの振付って、どこかに捨て曲っていうか、やっぱりお客さんが疲れるポイントがあるものなんですが、これにはそういうのが一切ない。テーマパークに行っていろんな乗り物に乗ったみたいな。っていうのは作っている過程から思ってました。

──アルバムそのままだからというのもありますね?

多田 僕もCD世代なので、アルバムを聞いて感じる、世界観やストーリーや流れの気持ちよさっていうのは大事だとおもってます。ももクロチームのアルバムを作ることに対する意識の高さはすごいですよね。

──avecooさんのオススメの見どころを教えて下さい。

avecoo 全部! 内容的には全部というのと、振り的には「レディ・メイ」。ダンスを是非見てほしい。それで、今後、こういう方向性の演出を大きな場所でやってみたい。「お客さんが沢山入るから動きが伝わりづらい」とか、挑戦はあると思うんですが、自分はそこがなんかやってみたいです。

多田 アンダーグラウンドが小さくて狭いものっていう時代じゃないし、メジャーになったからその人の趣味を殺してメジャーっぽいものを作る時代でもない。誰でも知っているドメジャーって今の時代にはもはやいなくて、細分化している。強いものであれば、人って集まると思うんんです。その中で自分が素直にいいと思える映像を諦めずに作っていく努力をしていきたいと思います。

avecoo 本当にそう。そして、日本人にはショーをもっと見てほしい。

多田 エンターテインメントのトップを走っているももクロが、こういうことを僕らを使ってやってくれる。切り開いていくっていう強い意志や、考え方が心強いですし、僕は僕で負けないように日々ブラッシュアップしていきたい。

──この世界がもっと広がっていけばということですね。3者の出会いがもっと大きな形で実現するといいですね。

NEWREEL編集部

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