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SXSW 2018レポート:ソニー WOW Studio編
成熟するVRシネマと音のVR

kana Apr 27 2018

アメリカ、テキサス州オースティンで毎年開催されるエンターテインメントの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」。バリー・ジェンキンスの基調講演を紹介したフィルムフェスティバル編に続き、「VR」にまつわるレポートをお届けする。

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成熟を見せるVRシネマ

近年、映画業界におけるテーマは「VR」のシネマランゲージを確立することだが、ここ数年の間に様々な試みとして多くの作品が生み出されている。サンダンス映画祭でもダーレン・アロノフスキー監督(「ブラック・スワン」「マザー!」)がプロデュースしたVR作品「Spheres」が話題となり、同作品が上映されたニューフロンティア部門のVR体験のチケットは完売となるなど、新しいストーリーテリングの手法として定着した感がある。

「SXSW 2018」でも、巨匠 テレンス・マリック監督がVRシネマ「Together」をワールドプレミアし、“VRの母”と呼ばれるノニー・デラ・ペーニャは「Greenland Melting」を展示するなど、ベテランも若手も関係なくこぞって参入。「Together」などの人気コンテンツは「ウェイティングリストで半日以上待ち」という状況で、すべてを体験するのは叶わなかったが、体験した中からいくつか紹介したい。

「The Sun Ladies」

サンダンスでも上映された、ISISのヤジディ教徒襲撃の悲劇から生まれた女性戦闘部隊「Sun Ladies」を追った7分間のVRドキュメンタリーシネマ。イラク・ジンジャルに暮らすヤジディ教徒の男性は虐殺され、女性は性の奴隷として拉致された。脱出に成功した数人の女性たちは、クルド武装組織と合流して女性のみの戦闘部隊を編成し、自ら「Sun Ladies」と名乗る。本作品では、あたかも現場でチームの一員となったかのように彼女たちと生活を共にしながら、アニメーションを交えた演出で彼女たちの苦しみや悲しみを体験する。

「Space Explorers: A New Dawn」

こちらも、サンダンスでも上映されたVRドキュメンタリーシネマ。モントリオールを拠点に活動する「Felix & Paul Studios」の処女作品となる。20分にわたり、NASAの宇宙飛行士のトレーニングや惑星歩行を追体験できるというもの。360度の世界で見る宇宙空間や国際宇宙ステーションは、没入感と臨場感にあふれる。本作はシリーズものとして制作されており、続編もアナウンスされている。

「Dinner Party」

最後に紹介するのは、シリーズもののパイロット版として制作されたVRシネマ。アメリカで最初のUFO誘拐事件(1961年)として有名な、ヒル夫妻の実話をもとにしたものだ。ヘッドマウントディスプレイを装着すると、あたかも自分がUFOから降りてくるような演出になっており、60年代のアメリカのリビングルームに降り立つ。ベティー・ヒル(妻)とバニー・ヒル(夫)は友人らとともに和やかなディナーパーティーをしていたかと思うと、突如、UFOに拉致された時の告白が始まるというストーリー。

話題をさらったソニーのWOW Studio

WOW Studio ダイジェスト映像

SXSWの3本柱の1つは、「インタラクティブ」。98年からスタートアップを巻き込み、デジタルによる「未来のテクノロジーのショーケース」という趣が強い。過去にはTwitterやAirbnbらがお披露目され、日本からの参加者にとって注目度もナンバーワン。そのため、中心となるコンベンションセンター周辺には世界的企業がカフェなどを貸し切り、大がかりなデモンストレーションを行う。

なかでも群を抜いて話題となったのが、ソニーの「WOW Studio」。4日間で15,000人が来場した。スポーツ、ゲーム、VRなどクリエイターとのコラボレーションにより、エンターテインメントとして昇華した11点に上る体験できる展示が人気の理由だ。そのうちのいくつかを簡単に紹介しておこう。ユニバーサル・スタジオでおなじみのユニバーサル・クリエイティブとコラボし、ソニーの最新オーディオ技術と触覚提示技術を組み合わせ、ホラー体験ができる「Ghostly Whisper」。ユニバーサル・スタジオの役者に誘われ、あの世とこの世の狭間で非日常な時間を過ごすことができる。

巨大な立方体に組まれた透明スクリーンの中で映像、音、振動など五感で体験する「Interactive CUBE」では、クリエイター集団「SIX」らとコラボレーションする。リリックスピーカーとソニーの技術で、“言葉でつなぐDJ”をゲーム感覚で楽しめる。

そして、個人的に最も感動したのが「音響回廊 Odyssey」。音によるVR体験だ。体験するのにヘッドセットも必要ない。真っ暗なトンネル状の空間に入ると、ソニー独自の空間音響技術「Sonic Surf VR」により制御された576個のスピーカーから流れる立体的な音像が、ファンタジーの世界に誘ってくれる。これを手がけたのは、サウンドプロジェクト「See by Your Ears」を主宰する、サウンドアーティストのevala

「空間的な音作りは、彫刻に近い感じがあって。Odysseyではフィールドレコーディングした音源を使っていますが、そうした人々の記憶にある生々しい音を、現実には起こり得ない反射やスピードで練り上げています。すると、体験したことないようなファンタジーが立ち上がるんです。Sonic Surf VR(波面合成技術を活用した空間音響技術)では、(視聴する場所によって)“私だけにしか聞こえていない音”を作り出すことができます。このOdysseyのトンネルでも場所によって聞こえる音体験が違っていて、万華鏡のように音像を作ることができるんです」(evala)

「このSonic Surf VRのあたかも音が飛び出てくるような体験で、Odysseyでは、サウンドで時空を旅する不思議な体験をもたらします。今回この技術の特長を熟知したevalaさんのアーティストとしての表現要求に合わせて、ソニーの研究開発部署のエンジニアチームがシステム改善と試作を重ねた特別なもので、これまでにない没入感のある音楽体験を目指しました。そしてこの音場は採録不能、つまりこの空間でしか体験できない音のVRなんです。また、音楽期間に開催したLost in Musicイベントでは、Odysseyを抜けると、夢の中の世界を表現したライブ会場『Dreamscape(ドリームスケープ)』に到着し、会場ではさまざまなアーティストのライブをお楽しみいただきました。今回、大きな反響もいただき、Sonic Surf VRはこの6月に発売の予定です」(戸村朝子 ソニー株式会社 UX企画部 コンテンツ開発課統括課長)

その感覚を増大させるのが、韓国とUKのアーティストデュオ「Kimchi and Chips」による光のインスタレーション。トンネルの両脇に張られた無数の透明な糸にプロジェクターで光を投影し、幻想的な空間を演出した。

今回の発想のもとになったのは、四方に192台のスピーカーを配置したプロトタイプから始まったそうだ

「VR技術を使って『ベニスのビーチにいるみたい』とか『アマゾンの森にいるみたいだわ』っていうのは、単なる自然の劣化版だと思うんです。本来VRが出はじめた時って、“ニューリアリティ”という要素が強かった。新しい現実、知らない現実、“超現実”がそこに立ち上がる、というのがVR。超現実が立ち上がった時、人が誘われる感じを得られるんですね」(evala)

“音のVR”の面白いところは、瞬時性にもある。音や香りは瞬間的に私たちをタイムスリップさせてくれる。evalaは言う。「(音には)瞬間的に胸ぐらをつかまれる。ある音楽を聞いたときに一瞬で記憶がよみがえったりするように、聴覚のほうが視覚情報よりも速く、本能的に伝達すると思うんです。僕が『音』の活動をずっと続けている理由は、そうしたプリミティブな知覚を揺さぶりたいからですね」

不思議なことに、Odysseyを体験した人の多くの感想が「まるでメディテーションをしたようだ」「疲れが吹っ飛んだ」というもの。世界的ブームを見せる“メディテーション(瞑想)”も、今年のSXSWでのトレンドの1つだった。「第1回 ウェルネス・エキスポ」が開催された記念の年でもある。

SXSW後半は、3本柱の1つである「ミュージック」に街はシフトする。ソニーの展示会場は「Lost In Music」と名称を変え、内部もクラブ仕様に転換。アメリカの人気R&Bアーティスト・Khalidのパフォーマンスには多くのオーディエンスが集まり、彼のVRミュージックビデオがワールドプレミアされた(PlayStation Storeでダウンロード可)。SXSWのミュージック全般においては、日本人高校生 ORONO(オロノ)がリードボーカルを務める無国籍バンド「Super Organism」が話題になっていたことを、最後に記しておきたい。

bykana

NEWREELの編集者。コツコツと原稿を書く。

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