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いまの自分に疲れている人のための あおぞら技術用語 「DNSの巻」

清水幹太 清水幹太 Jul 2 2018

清水幹太さんによる技術用語解説の第4回! インターネットを利用するうえでなくてはならない存在「DNS」について。ネカマ経験者の幹太さんがわかりやすく解説します。

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今も昔も承認欲求

私はこの原稿を書いている時点で41歳だが、我々の世代(いわゆる「76世代」)というものを特徴づける一つの共通体験として、「高校生〜大学生くらいでインターネットに遭遇している」というのがあると思う。
その頃の大学は、ちょうど学内にインターネット用の端末を設置し始めた頃で、私も初めて触れたウェブブラウザは、大学の情報なんとかセンターの端末で触れた「Mosaic」だ。
同世代の人間は、それぞれに衝撃的なインターネットとの出会いというのがあって、よくお互いにそんな話をするものだ。インターネットというのはどう考えても「文字の発明」とか「車輪の発明」とか、そういうレベルの世界を変える大発明なわけで、全然デジタルネイティブではない私たちはみんな、普通に生きていたら20歳あたりの「人生これから」という時期にそういうとんでもない革命的なものを突きつけられてびっくりした、というわけなのだ。「76世代」とはそんな世代だ。
私の場合は、その大学の端末でネットサーフィンをしているうちにたどり着いた、どこかの小学校か何かのウェブサイトでの体験が衝撃そのものだった。なぜかその小学校は当時としては珍しいというか新しいというか、校歌の音声データをWAV形式か何かで公開していた。
「え? まさかこれはここでこの校歌を聞けるのか?」と思って、その校歌の音声データのリンクをクリックするとダウンロードが始まった。


5分〜10分待つと、データがダウンロードされ、いきなり、その見知らぬ小学校の校歌が流れ出したのだ。
今考えると超当たり前の現象だが、私は驚いた。その場所にあるはずのない音楽が、他の場所からやってきて流れ出す。それは当時としては魔術としか言いようがなく、「やばい時代が来てしまった」と思った。

私はそれから20年ちょい経って、その「インターネット」というものを舞台にデジタル関係のものづくりをしているが、同業の同世代の人たちはみんな20年前くらいに自分の「ホームページ」をつくっては公開していた人が多い。
私もご多分に漏れず、いろいろやっていた。

当時における個人のホームページというものは、だいたい似たような構造を持っていたと言っていい。今でいうソーシャルメディアのプロフィールのようなものだと思えば良いかもしれない。
見よう見まねで、どこかで拾った他のホームページの HTML コードを改造して色を変えたり文字を変えたりしてみる。
自己紹介をする。自分の趣味について何かを書く。日記を書く。CGI でできた掲示板を設置すればもう上級者だ。そして忘れてはいけないのが「リンク集」だ。インターネット上で見つけた興味深いホームページの掲示板に、勇気を出して「相互リンクさせてください」なんて書き込むと、「いいですよー」なんて返事が返ってくる。そうすれば相互リンク成立だ。要するに、「自分のところからあなたのところにリンクを貼るので、あなたのところからも自分のところへのリンクを貼ってください」ということだ。
ソーシャルメディアで言うところのフォロー一覧とかフレンド一覧的なものに近いとは思う(しかし多くの場合匿名でのやり取りだし、それほど気軽なものでもなかった気がする)。
他のホームページにリンクを貼る際に重要なのが、「バナー」だ。そう。Yahoo の広告とか、ブログ記事をスクロールすると下からするっと出てきて間違えてタップさせようとする、あのスーパーうんこ邪魔存在である「バナー」である。
当時は、各々のホームページが相互リンク用のバナーを提供していて、相互リンクをするときはそのバナーを自分のホームページに入れて相手先にリンクを貼っていたりしていた。
結構大変だったけど、楽しかった。あの頃は、自分のホームページを公開していて何がそんなに楽しかったのか。

私はいま、だいたい1997年〜1999年あたりのインターネットについて語っているが、2018年の現代にはそのモチベーションを表現するための便利で、そしてつまらない言葉がある。「承認欲求」である。
根本的にはインスタ映えする写真を撮るために旅行に行ってたくさん Like をもらうモチベーションとあまり変わらない。人気があるホームページはアクセスカウンター(訪問者数がわかるカウンタ)の数字がどんどん増えていくし、掲示板への書き込みも頻繁だ。面白い、魅力があるホームページを公開すればいろんな人に見てもらえるし、見てもらえていることがわかる。
「承認欲求」という上から目線の言葉で断じてしまうと、そういうモチベーションも意地汚くて実体がないように聞こえてしまうが、いろんな人に自分のことを見てもらえるのは楽しいし、相手にしてもらえるのは愉快なわけだし、みんなの承認欲求がインターネットをここまで大きくしてきたのだ。承認欲求を笑っちゃいけないのである。

今だから明かす超黒歴史

私の名前は清水幹太である。当時から、今と変わらない「qanta」というハンドルネームで自分のホームページを持っていた。いろんなものを載せたり、書いたりしていたが、あまり人気もなく、掲示板への書き込みも少なかった。
ちなみに、その頃初めて、家庭教師で稼いだバイト代の一部で「ドメイン」というものを購入した。細かい説明は後で書くが、この NEWREEL だったら「newreel.jp」、Google だったら「google.com」。あの「なんとかドットコム」みたいなやつのことだ。
その頃の私は、「白蟻電解コンデンサ」というバンドをやっていたので、そこから取って「shiroari.com」というドメインを取得した。
そしてその shiroari.com に、自分のホームページを設置したわけだが、繰り返すが全然人が来ない。なんかカッコつけた日記しか置いていないし、デザインも特筆すべき感じではないし、役に立つ感じではないし、いつも他の人が運営する人気ホームページを見ては、悔しさに指を咥えていた。これでは承認欲求が満たされない。全然楽しくない。もっとチヤホヤされたい。

そこで当時の私は禁断の果実に手を出した。この当時のインターネットには、確実に人気者になれる簡単な方法があった。
それは、名前を変えることだ。インターネット上での名前を変えて、別のホームページを始めたのだ。

インターネット上で男性が女性であることを装うことを「ネカマ」という。ネカマとは、「ネットオカマ」の略称である。
上述の通り、この時代にホームページをつくるためには HTML を書かなければならないし、プロバイダとの契約やら何やら含めてなかなか大変な作業が必要だった。ゆえに、いわゆるデジタルに詳しい層というか、平たく言うと機械に強いオタク方面の人々がこぞって参加している世界だった。
結果として、当時のインターネットには全然女性ユーザーがいなかったのだ。これは本当のことで、そもそも1999年くらいの時期は、「インターネットなんかやってる奴はダサい」くらいの空気は確実にあったと思うし、私の周囲の人間も「えーカンタくんってそういうのやる人なんだ」みたいなノリだった。
そんな男くさい、男子校の写真部の部室のような社会だ。そこにいる女性は、当然話題の中心・人気の中心になる。超チヤホヤしてもらえるのだ。
だからこの時代、多くの「ネカマ」たちが登場し、人気を獲得した。

私もネカマだった。具体的には、「堀めぐみ」という名前で自作のポエムをホームページに発表していた。そのページは「qanta」としてのホームページの数倍のアクセスを稼ぎ、掲示板には堀めぐみのポエムを褒めてくれる男性ユーザーの書き込みがどんどん投稿された。
「めぐみちゃんは詩の才能があるね」とか「めぐみちゃんの言葉は透き通っているね」みたいに言われるたび、私、いや、めぐみちゃんは喜びに震えた。また新しいポエムを書こうと思った。もっと人気のある女性ユーザー(あるいはネカマ)はたくさんいたし、堀めぐみのポエムは稚拙だったが、誰からも相手にしてもらえない男性としての自分よりはマシだった。
そう。私はそこでは「めぐみちゃん」と呼ばれていた。授業に出ずに大学のサークルで楽器の練習をして、実家に帰り、夜中に数時間「めぐみ」になる。それは私の青春においてかけがえのない時間だったような気がする。

実は私は「堀めぐみ」が女性だとは一言も言っていなかった。やったことは本当に名前を変えただけだ。名前が「女性っぽい」だけで、全てが変わった。

現実世界では「清水幹太」。ネット上では「堀めぐみ」。そんな二重生活がしばらく続いた。
名前とは、私を他の誰かと識別する記号だ。しかし、「清水幹太」という名前からは、この人が男性であろうという情報は得られるし、なんかデブっぽい。「堀めぐみ」という名前は、この人が女性であることを示唆しているし、自分でつけておいてアレだが、かなり美少女っぽいと思う。
名前とは、単なる識別子ではなく、ある程度、単に識別する以上の情報が入っているものなのだ。

インターネットの住所の仕組み

インターネット上の URL(ウェブサイトのアドレス。https://newreel.jp/feature/1825 みたいなもの)も同じだ。
インターネット上でも識別のために「名前」が使われる。いわゆる「ドメイン」というやつだ。この記事が掲載されている NEWREEL ならば、「newreel.jp」、これがドメインだ。
私の個人ウェブサイトは「shiroari.com」、新しくつくった会社なら「bassdrum.org」だ。こういう、いわゆるインターネット上の住所を識別するための「名前」がドメインということになる。これはもはや、社会に定着している概念かと思う。インターネットと、この「ドメイン」は切っても切り離せないもののように思える。

このドメインたちが割り当てられているインターネット上のサーバ(ウェブサイト等を入れてあるコンピュータ。みんなでこの「サーバ」にあるデータを取ってきてウェブサイトやら画像やら何やらを見ることができる。第1回を参照。)には、最初から名前がついているわけではない。実はもともとは番号で識別されている。bassdrum.org だったら52.192.212.218だ。試しにhttp://52.192.212.218にアクセスすると、私の会社のウェブサイトが出てくるはずだ。bassdrum.org の正体は52.192.212.218であり、52.192.212.218だと覚えられないしあんまりだから、bassdrum.org と呼んであげよう、ということなのだ。52.192.212.218では風情がないし、どういうウェブサイトなのかもわからない。
この52.192.212.218みたいなやつのことを、いわゆる「IPアドレス」と呼ぶ。よく、ネット上で悪いことをすると「IP アドレスから足がついて逮捕されるぞ!」とか言われるあれである。
インターネット上のサーバの住所はすべてこの IP アドレスで管理されているのだ。
つまりこれはマイナンバーだ。識別以外の特別な情報はまああまりない(実際にはそこから国がわかったりとかするのだが)。

ドメインは「名前」なわけだから、単なる識別以上の情報が入ってくる。newreel.jpだったら「あ、この URL は、『newreel』という何かのウェブサイトで、『jp』だから日本のウェブサイトなんだろうな」ということがわかる。NEWREEL を知っている人ならば、「newreel.jp」を覚えてしまうのは容易い。

この「ドメイン」をつかって味気ないIPアドレスに名前をつけるシステムのことを、今回のテーマであるところの「DNS」と呼ぶ。Domain Name System(ドメインネームシステム)略して「DNS」だ。ちょっとインターネットが好きな人ならば、聞いたことがある技術用語だろう。「DNS」というのは、この「サーバの番号だとよくわかんないからドメインで呼ぼうぜ!」という仕組みそのもののことである。

私は、このDNSがあったからこそ、インターネットがここまで普及したと言っても過言ではないと思う。インターネット上のすべての場所が数字だけの IP アドレスだったら、きっと何か寂しい。つながっている感じがしない。様々な場所にちゃんとわかりやすい名前がついているからインターネットは色彩豊かになり、人が行き交う楽しい場所になったのだ。
DNSの仕組みは、広大なインターネット上の住所を定義して、適切に訪問者を誘導するためにつくられた非常に賢い仕組みを持っているが、そのへんの細かいところは長くなるので今回は省く。

しかし、そこで問題になってくるのが前述の「shiroari.com」だ。「白蟻電解コンデンサ」という変な名前のバンドをやっていた関係でそんなドメインを取得したことは前述の通りだが、この20年間というもの、何回か info@shiroari.com に白蟻駆除の問い合わせが来た。
何しろ shiroari.com なので、みんな白蟻駆除業者だと思ってアクセスしてくる。数万円で購入したいという相談もあった。
当時はシロアリ駆除業者がホームページなどというハイテクなものを持つなんて想像し難い時代だったが、今となっては何しろドメイン業界の総本山である「.com(ドットコム)」だ。shiroari.com は、白蟻業界垂涎の超魅力的なドメインなのだ。

ところがそこにアクセスすると、謎のクリエイティブ作品集みたいなのに飛ばされて白蟻で悩んでいる人たちをさらに悩ませることになっている。
折角だからこのドメインは子々孫々まで受け継いでいけたらと思うが、100年経っても200年経っても、この世に木造建築がある限り白蟻はいなくならないような気がするし、いっそのこと家業として白蟻駆除業者を始めるのはどうだろうか、なんて思う。
それが、DNS に誠実であるということなのではないだろうか。いや、そうでもないような気がする。

(マンガイラスト・ロビン西 /協力・S2ファクトリー

清水幹太

バーテンやトロンボーン吹き、デザイナーを経て、ニューヨークをベースにテクニカルディレクターをやっている。

BASSDRUM( http://bassdrum.org