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格闘ゲームオタクとアニメオタクがアイドルMVを作ったら。
妄想キャリブレーション「激ヤバ∞ボッカーン!!」副音声的解説!

kana Oct 1 2017

格闘ゲームネタのMVを舞台に、秋葉原ディアステージ生まれの、妄想キャリブレーションが戦闘モードに!映像表現も、3Dスキャン、3DCGエフェクト、3DCGアニメーションに実写がカオスに混ざり合う。オタクカルチャーのソリューション会社“アマナ異次元”所属のアイドル&アニメオタクディレクター篠田利隆と、(隠れ?)格闘ゲームオタクのアニメーション作家大橋史がダブルディレクションで挑んだ超必殺MV。両監督が見どころとなる3シーンを解説してくれた。

dir
篠田利隆 (アマナ異次元)、大橋史
pl
長崎豪(I&S BBDO)
pr
山崎尊正 (amana)、大城麻苗三 (アマナ異次元)
c
矢部弘幸(SPACE SPARROWS)
lt
多田一聖
seq
岩永浩司(RISE grip)
ch
Mayuka
cg
小野哲司(UZURA)、でんすけ28号、持田寛太、吉田恭之
ani & char
中内友紀恵
ol ed
尾熊貴之(DTJ)、今村誠(amana)
gd
佐々木俊(AYOND)、中西洋子(AYOND)
3D sc
SUPER SCAN STUDIO(K’s DESIGN LAB)
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2016年にメジャーデビューを果たした妄想キャリブレーション。「まだまだ順風満帆とはいえないアイドルとしての彼女たちの決意“過去の自分を乗り越える”をテーマにビジュアル化しました」(篠田利隆)。映像演出はインディーズ時代ように(篠田監督がインディーズ時代より手掛けている)、アキバカルチャーに寄せたものになっており、妄キャリの反撃を印象づける。

解説その1:ダブルディレクションは陣取りゲーム。プレミア上でやり取りした絵コンテ

画像クリックで絵コンテが見れます

篠田:実写の演出を僕、アニメーションの演出を大橋史君、企画をI&Sのプランナーの長崎豪さんと、三人寄れば文殊の知恵、じゃないですけど、そういう役割で「激ヤバ∞ボッカーン!!」は作っています。妄キャリがメジャーに移籍して、音楽性が変わり、僕の得意なアキバカルチャー一辺倒な映像の企画から卒業したくて、ドライに企画が作れるプロに頼んだほうが世界観が広がるなと。

大橋:篠田さんとはこれまでもMVを作ってきていますが、今回ほど実写とアニメパートが絡み合った演出ははじめて。だから絵コンテの作り方から有機的なやり方で、アニメの場面を篠田さんが(コンテを)描いたりしてるんです。

篠田:格ゲーを軸においた大まかなストーリーを大橋くんが考えて、プレミアのタイムラインを絵コンテのプラットフォームにして、お互い陣取りゲームのような感じで、「ここ僕がやります」って、描いたコンテを貼っていくんです。昔、ネット回線が高速化した時代、エレクトロニカの人たちが、音楽ファイルをメールでやりとりしながら作曲していたような感じ。今作はコンテだけじゃなく全体的にクラウド感のある作り方だったね。

大橋:僕が気にかけていたのは、表現のテーマのひとつ”実写で超必殺技”の撮影に篠田さんが心身注ぎ込めるような構成になるようにって。

篠田:そんなこと考えてくれていたの!? CGカットのボリューム増やしてくれたな〜って思っていたんだよね。内容としてよくなるからありがたいな〜なんて。

解説その2:キャラクターデザインのこだわり

中内由紀恵による雨宮伊織のウインクのカットは大橋監督のお気に入り場面

大橋:作画とキャラクターデザインをしてくれたのは、中内由紀恵さん。よく一緒に仕事をしているものあって、僕からは方向性と最低限のルールだけ伝えると、行間をどんどん埋めて作ってくれるんです。普段は等身の低いキャラクターが得意なのですが、今回は6、7等身の引き締まったシルエットのデザインをしてくれました。注目してほしいのは、青い反射光。これは昔のストリートファイターのパッケージをなぞったものです。最新のストリートファイターVでも青い反射光は、CGキャラクターに入っていますが、その特徴的な反射光を積極的に入れてもらっています。それと、このMVに限らずですが、いつもお願いすることは、シルエットだけで誰か分かるようなデザインにすること。僕はゲーム好きなんですけど(笑)、ある格闘ゲームディレクターのインタビューで、「シルエットで誰かを判別出来るようにしておくのが絶対的なルール」だというのを読んで、なるほど〜!と思ったんです。

篠田:中内さんのイラストは色合いも素敵ですね。一見、彩度が高い色を使っているよで、鈍い色を上手く使う。センスを感じます。

大橋:色面のとり方や、形の捨て方も面白い。商業アニメーションでは見られないセンスです!

解説その3:ネットカルチャーのバグ的要素

大橋:この“低音”って出てくる場面、多摩美術大学の情報デザイン学科卒の持田寛太くんという3DCGに長けた子に担当してもらった。ダブステップのオケに対してゲージが伸び縮みするっていう表現や物理ベースのCGシミュレーション的な表現を、アイドルでやってみたかったんです。大量に出てくるメンバーは彼女たちの3Dスキャンデータを使っています。

篠田:3Dスキャンで困ったのが衣装だった。衣装の脇が繋がっていると体の関節を動かせないので、後処理が必要になる。それに時間がかかったね。今回はグラフィックデザインスタジオのアヨンドに入ってもらって色彩設定をしているから、色んな表現があるけどまとまり感はキープできたのがよかったですね。

解説その4:3Dスキャンデータを使った演出

3Dスキャンデータの現在のにぁ(黒い衣装)と過去のにぁ(白い衣装)が対峙する

大橋:今回のビデオ用に、84台のカメラを使って全身を3Dスキャン撮影して、 “過去の自分”を作り、現在の自分と対戦する演出をしているんです。このビデオのテーマ「過去の自分を乗り越える」っていうのを表現しています。

篠田:妄キャリのファンは、光るスカート(絶対領域をLEDが照らすスカートの衣装)やプロジェクションマッピングの演出などで、テクノロジーとの親和性は高い。アキバの人たちだからプログラマーも多いんですよね。妄キャリの音楽性において、ヴェイパーウェイブといった音楽ジャンルの影響も映像で仕込みたかったので3Dスキャンをつかった表現はぴったりでした。

その5:格闘ゲームのアイデンティティがこもるエフェクトへのこだわり

3DCGで制作された効果線。テクスチャには実際の写真を引き伸ばして使っている。

大橋:エフェクトアニメーションはこの作品の重要な要素なんです。

篠田:そう。2D作画のエフェクトを入れると「でんぱっぽい」って言われるから、妄キャリらしいエフェクトを開発しようってテーマがあった。

大橋:そうなったら3DCGしかない。でんぱ組.inc の流れを引き継ぎながらも、新しい挑戦として、3DCGで、セルルックでなくて写真を無理やり引き伸ばしたテクスチャを採用しました。実際、NASAの航空写真を引き伸ばして使っているんです。近年の格ゲーも、エフェクトにそのゲームのアイデンティティを込めていて、ストリートファイターⅣは、筆が走ったようなCGストローク、Ⅴは油絵っぽい質感で個性を立たせている。妄キャリだったら、やっぱりポストインターネットの文脈も汲んだ、バグのような表現がいいんじゃないかって思い切って入れていきました。でんすけ28号という多摩美術大学を卒業したばかりのクリエイターが担当してくれています。彼はバグから着想したアニメーション作品制作をしている若きクリエイターで、ボス戦も2Dルックのシェーディングで抜群のセンスで作ってくれています。

でんすけ28号によるボス戦の3DCG

その6:人力ワイヤーアクション“超必殺技”撮影

”超必殺技”の撮影に使用したのは回転台、箱馬、そして本人たちのジャンプ力のみ!

篠田:今回、ワイヤーアクションの予算はないけど、同じアクションを別アングルで何度も撮影し、ジャンプをしている演技を繋いでいくことで、空中のバトルシーンを撮っていこうと考えていました。ただ、回転台と箱馬と本人たちのジャンプ力に頼ることになるので、彼女たちの負担も相当なものが予想されたけど、「良くなるのであればやります」ってみんな情熱を注いでくれた。撮影には24時間もかかりました…。しかも、大橋くんからの「格ゲーの実写シーンですよ!」っていう圧が凄かった (笑)。撮影現場では演技指導までやってくれて。

大橋:対戦ゲームファンは好戦的な傾向にあるんですよ。だから、ちゃんと格ゲーの文脈を理解した演出をしないと叩かれるだろうし、自分が見る側にたった時「ちゃんとわかって作っているのか?」っていう気持ちになるから…。今回ネタ元にしたゲームは、ストリートファイターⅤ、ザ・キング・オブ・ファイターズ xiv、マーブル VS カプコン、サムライスピリッツ、龍虎の拳、ヴァンパイアなどです。

その7:オンラインエディターがCG背景を担当

尾熊貴之のCGによるメンバーの心情を描いたモノトーンの世界

篠田:このMVは、制作期間は一ヶ月弱しかなくて、年末ギリギリにコンテが上がって1週間後には撮影だったね。

大橋:もう辛かった。作ってる時に2回泣いた。

篠田:泣きながら電話かかってきたね。

大橋:だってさ、終わらないかもって絶望して。

篠田:でもその時に無茶苦茶なアイデアが閃いたね。

大橋:尾熊(貴之)さんに、助けられました。

篠田:尾熊は、実写のスタッフ(オンラインエディター)なのに、CGも作ってもらったんです。トーンが変わるモノクロのシーンは、格ゲーではなく、本人たちの心情を描いた世界。去年は傷つく事もあったけど、今年はボッカーンしていこうよって、天使の羽が生えて覚醒して、勢いよくいくぞっていうストーリー。実写っぽい背景のCGが欲しかったけど、出来る人がいないぞってことになって…。

大橋:で、尾熊さん出来るんじゃないかって。

篠田:「プライベートでお正月映像を3DCGで作っているんですよ〜」なんて自慢げに話していたぞって (笑)。

大橋:他にも尾熊さんのいいシーンがあるんですよ。

キム・カッファン(餓狼伝説)の飛燕斬

大橋:胡桃沢まひるちゃんのトルネードキック。「餓狼伝説」に出てくるキム・カッファンの飛燕斬です。足先に残像が走るエフェクトを再現してくれた。

篠田: ここは僕もお気に入りのシーンです。実は撮影当日まで知らなかったんですが、まひるちゃんはキックボクシングを4年もやっているんです。だから、こういうケリ技がすごく様になる。実写でかっこよく撮るのって意外と難しいんです。

大橋:今回のビデオは、僕は、アニメーションのディレクターという立場で、何人ものクリエイターに参加してもらって作り上げているんですが、方向性を示して人にお願いするっていう監督業の難しさを痛感しました。

篠田:監督って自分の表現したことを人にやってもらうっていうのが仕事の一つだからね。

その8:“わからないことには口出ししない”というオタクの鉄則

公開後一番話題となったと言っても過言ではない「攻撃判定」のシーン

篠田:大橋君が格ゲーのマニアっていうのは知ってたけど、想像以上だったっていうのが全体的な感想かなぁ。長崎さんも格ゲー好きで、作っている時「この攻撃判定ヤバいっ!!」って、2人で盛り上がってたよね。「そんなに盛り上がるの〜??」と僕は心の中で思いながら。それで、公開したら、みんなここ、ヒットボックスの演出の話なんですよ。センスが凄いって。僕もアニメオタクなんでわかるんですが、“わからないことには口出ししない”というのがオタクの鉄則。情報強者にはあらがえません。

大橋:格闘ゲームでは”やられ判定“よりも、”攻撃判定”の枠が外に出ているの方が強いんです。このダンスシーンは”攻撃判定”がめっちゃ飛び出ていてるんです。

篠田:いつも大橋君に「篠田さんオタクだからな〜」なんて言われきたけど、今回だけは逆転。大橋くん、ただのゲームオタクだった。

大橋:中高はお小遣いを全部格ゲーに注ぎ込んでた。美大進学のタイミングで大好きな格ゲーを全て捨てたんです。ゲーセンで仲良かった人たちとの関係も断って。芸大に行くためには好きなもの全部捨てなくちゃって思ったんですよね〜。そこから10年、封じていた気持ちがぐわって湧き上がってきちゃって。

篠田:おれ、美大いくときそんなん考えたことなかったわ〜。

大橋:だから二浪したんだよ。

篠田&大橋:爆笑

大橋:モノづくりの志向的に、篠田さんはミュージシャンに寄りそって、僕は自分がやりたいことをグイグイ推し進めていくタイプ。

篠田:だから僕は実写の演出家で大橋くんはアニメの演出家なんだろうね。

bykana

NEWREELの編集者。コツコツと原稿を書く。

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